兵庫県立芸術文化センターで行われた「
第113回 定期演奏会 フロール×フアンチ シューマン&ブラームス」へ行って参りました。寒の戻りで数日前より空は曇りが続き、空気も冷え込んでいましたが、時折顔を見せる陽光はやや強く暖かく、少しづつ春本番に近づきつつあることを肌で感じる週末の午後でした。
会場へと続く道なりを歩くと、いつものように広場前にはダンス練習に励む若者やぼんやりと風景を眺める待ち合わせらしき人影が視界に入って参ります。開演15分前に到着し、エントランスホールからKOBELCO 大ホールへと吸い込まれていくかのような人波に続きます。座席は1階中央後方、すでに多くの観衆が開演前のひとときに歓談したりパンフレットへ目を通す様子がありました。
大ホールのステージには中央にスタンウェイのグランドピアノが蓋を閉じ鎮座。その背後に指揮台。下手から第一バイオリン、コントラバス、チェロ、ビオラ、第二バイオリン、中央背後に管楽器、上手にティンパニーの中編成のセッティングでした。開演間近のアナウンス後、ステージ両側の扉が開き、兵庫芸術文化センター弦楽団員(PAC)の皆さんがステージに登場すると客席から拍手が沸き起こります。
続いてゲストコンサートマスターである東京フィルハーモニー管弦楽団所属の近藤薫さんが登壇し客席へ一礼、チューニングが始まります。音程が揃ったところで客席が暗転、 クラウス・ペーター・フロールさんが下手からステージへ登場するとひときわ大きな拍手が起こります。いよいよ開演です。
演目は
・ベートーヴェン:「エグモント」序曲 Op.84
・シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 Op.54
(休憩)
・ブラームス:交響曲 第1番 ハ短調 Op.68
今回のプログラムでベートーヴェン 序曲は昨年「コラリオン」がPACオーケストラで演奏(
レビュー クラウディオ・クルス & ブルーノ=レオナルド・ゲルバー)されて以来、今回はクラウス・ペーター・フロールさんのタクト。シューマンはソリスト、クレア・フアンチさんのパフォーマンス。そしてブラームスはシューマンと同じくロマン派であり、交響曲 第1番はベートーヴェンとのつながりという点でも注目と、聞きどころ満載です。
ベートーヴェン:序曲「エグモント」作品84。フロールさんが手を振り上げ、オーケストラのマイティなサウンドが開放的に空間に広がります。ストリングスのエモーショナルで迫力あるリズムのキャンバスに描かれたブラスの爽やかで明るいトーンのペイント作品のような、華々しくも悠々とした気持ちの良い好演でした。
シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 作品54。フロールさんが一旦下手に下がり、スタンウェイのピアノの蓋が開かれます。
クレア・フアンチさんが登壇すると、客席から拍手が沸き起こります。ブルーの艶やかなドレスを纏い、右手にはシルバーのブレスレット。いずれもキラキラと輝いてます。フロールさんが再び指揮台へ上がり、客席へ向かい一礼し椅子に着座したフアンチさんが鍵盤に手を添えます。
印象的なフォルテのイントロダクションでは手を大きく振り上げ、あたかもはじけるようなアクション。続いて、音に身を委ねるように上体を仰け反り、揺らすエモーショナルな様にしばし目を奪われます。第一楽章はオブリガート、オーケストラと一体でありながら要所要所に響きを抑制した粒立ちの良いピアノの音がホール空間へと拡散し、オーケストラの歯切れの良い演奏に溶け込みます。
第二楽章は美しい雫が溢れ落ちるかのような、おなじみの旋律をオーボエとピアノが束の間に掛け合います。ピアノの手元を見ると機敏で柔軟な運指です。第三楽章は華麗ながら落ち着きを持ち合わせた堂々たるオーケストラの旋律と、煌びやかでたおやかさのなかにしっかりとした芯のあるピアノの凛々しい音とが掛け合い、やがて渾然と一体化しクライマックスを迎えます。客席から感嘆の声と歓声が複数上がります。
カーテンコールに応え、アンコールはファジル・サイ/トルコ行進曲。比較的最近の演奏会(
レビュー 神戸市室内管弦楽団 - 白井 圭 & 仁詩)でも行われたソリストのカデンツァを堪能できる演目。フアンチさんは随所にテクニカルなアレンジが入り、聴衆は釘付け。再びカーテンコールに応え、ヤン・ティルセン/Comptine d'un autre été, l'après-midi。こちらはうって変わりコンサバティブな演奏。この演目のギャップ故か、思わず感涙いたしました。カーテンコールが何回起きたのか覚えていません。
休憩を挟み、ブラームス:交響曲 第1番 ハ短調 作品68。休憩中にピアノがステージ外へ出され、大編成に近いオーケストラのセットへ組み直されます。PACオーケストラ、続いてフロールさんが登壇すると大きな拍手が起こります。木管のファンタジックなソロから始まる第一楽章。ストリングスの静謐さとブラスのスケールの大らかな演奏は休憩前より音圧が上がり音の厚みを感じます。第二楽章ではよりマジェスティックに。ティンパニー、コントラバス、チェロの低音が躍ね、ブラスが轟き、木管楽器の機微表現とのダイナミクスを感じます。
またコンマスの近藤薫さんによるヴァイオリンのソロパートのステーブルな演奏が見事でした。第三楽章はストリングスとトランペット、トロンボーン、ホルンによるマグニフィセントな相関と、随所にベートーヴェンの第九を連想させる旋律。第四楽章は集大成とも言うべくピッツィカートありアン・ディー・フロイデな旋律ありと、緩急目まぐるしくシーン展開し、ティンパニーのロールでクライマックスを迎えます。
満場の拍手によるカーテンコールに応えたフロールさんがPACオーケストラを讃えながら自信に満ち溢れ胸を張っていた姿が印象的で、それは彼がアンコールはしないよとジェスチャしたことで裏付けられているように思いました。やはり最後はマエストロの万全なパフォーマンスを意識せざるを得ませんでした。と同時にクレア・フアンチさんの今後のご活躍を大いに予感させる素晴らしい演奏会でした。
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