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レビュー 立体音響ラボ バーチャル・オーディオ・リアリティの世界

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  株式会社アコースティックフィールド さん主催のACOUSTIC FIELD presents『立体音響ラボ Vol.7』立体音響ワークショップ #7 「バーチャル・オーディオ・リアリティの世界」へ行ってまいりました。 場所は東京・お茶の水駅からすぐのRittor Base。地下1階へ階段を下りていきます。 扉を開けると、薄暗い室内にPCやモニター類。  暗幕カーテンの中に3つの球体、アコースティックフィールド・久保二朗氏とスタッフが機材を調整中。  ヘッドホンを装着しタブレットPCをキーボード操作している模様。NGを前提にカメラを構えると、撮影OKが出ました。複数のアプリケーションが起動しています。  シュアーのヘッドホン。ヘッドバンドにトラッカーが装着されています。  球体はシルバーカラーのスピーカー。ワイヤレス?実はダミー。体験者に方位感覚を示すために設置しているとのこと。  暗幕カーテン内で照明を落とすとダミースピーカーだけが浮き上がってきます。体験者はこのトライアングルの真ん中に立ち、ヘッドホンとリュックサックを背負い立体音響を体験することになります。  ここで一部体験者インタビュー。 イベンター:面白かった。もし暗幕でなかったら、と想像した。 制作者:視覚を奪わないのでいい。雰囲気作りが短い時間でできる。 プログラマー:ヘッドセット使ってない。土砂降りだけど濡れていない。絵がないぶん想像する。映像と組み合わせてもいいが、単純に音だけでもいい。音だけの方が解像度があるようだ。 会社員:音が当たる。面ではなく音が降ってくる感覚。沖縄にいるような不思議な体験。インスタレーションのようなアートで使われることになれば世界観が広がるのではないか。 サウンドデザイナー:素敵。敏感さが素晴らしい。立体感のある雨がいい。映像より音だけの方が広がるのか。 サウンドデザイナー:高さ方向が出ていた。動いているか感覚があった。画面がないことが新鮮。  筆者の感想も重なりますが、冒頭は音の定位音像や質感に聴感が集中しました。やがて、近くに聞こえる音に手を伸ばすが何も無い。音がある方へ歩み振り向くが何も無い。天井から降るモノに包まれているはずが、身体には何も及ぼされていない。不思議な感覚の臨場感と没入感。  さらに、ヘッドマウントディスプレイのない状態は視野に自由さが加わり、立体音

レビュー 渡辺香津美 Castle in the Air クリスマスライブ guest SHANTI

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 兵庫県立芸術文化センターで行われた「 Hyogo クリスマス・ジャズ・フェスティバル2019 渡辺香津美 Castle in the Air 」へ行って参りました。当日は正午あたりから寒空に曇がかかり始め、最寄駅の阪急西宮北口駅へと到着した頃には小雨混じりの天気。歩道には色とりどりの傘を差し足早に歩く人々。会場へと急ぐ人並みへと合流いたします。  開演15分前に到着すると、ロビーは人で溢れていました。会場は神戸女学院小ホール。変形八角形の客席がステージを取り囲みます。左手に蓋を外したスタンウェイのグランドピアノ、中央背後にウッドベース、右手にパーカションセット、センターやや右寄りに3本のギターセットと椅子。各ポジションにはマイクとモニタースピーカーがセッティングされています。  座席は中央右寄り、年齢層高めのオーディエンス。開演間近のアナウンス後、右側の扉が開き、谷川公子さんと渡辺香津美さんがステージに登場すると客席から大きな拍手が沸き起こります。谷川さんが鍵盤を押さえ、渡辺さんがアコースティックギターのチューニングを始めます。いよいよ開演です。 Koko Tanikawa You Tube Channelより 「Castle In the Air (谷川公子 Pf+渡辺香津美 G)ノルウェーの森」 演目は ・Mother Land - ノルウェーの森 ・Nekovitan X ・MOMO ・Light&Shadow ・On Green Dolphin Street ・Infancia (休憩) ・TOCHIKA ・My One And Only Love ・What a Wonderful World ・The Christmas Song ・Hard Time Comes Again No More ・上を向いて歩こう ・Unicorn ・Valencia - Bolero (アンコール)  Hyogo クリスマス・ジャズ・フェスティバル。今年は6公演の中からジャズギタリスト・渡辺香津美さんのライブを選びました。渡辺さんは言わずと知れたトップギタリスト。演奏は昔からあらゆる媒体を通じて聞いていましたが、ライブ体験は記憶の中ではおそらく初めてです。またピアニスト・谷川公子さんとのユ

レビュー PAC meets OZONE・小曽根真

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 兵庫県立芸術文化センターで行われた「 芸術文化センター管弦楽団 特別演奏会 PAC meets OZONE 」へ行って参りました。師走に入りようやく例年並みの寒さ。外出時にはウールのセーターを着衣しコートを羽織り首にはマフラーを巻きつけ冷たい風を防ぎます。かたや街路樹は一時生い茂っていた木の葉を脱ぎ捨てています。どちらも冬支度です。公共交通機関を利用し会場へと急ぐ人並みへと合流いたします。  会場はKOBELCO 大ホール。ステージにはヤマハのグランドピアノCFX、ウッドベース、ドラムセット。その背後に指揮台と中規模編成のオーケストラのセット。座席は3階中央。周囲を見渡せば老若男女、様々な年齢構成のオーディエンス。開演間近のアナウンス後、ステージ両側の扉が開き、兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の皆さんがステージに登場すると客席から拍手が沸き起こります。  続いてコンサートマスターの豊嶋泰嗣さんが登壇しチューニングが始まります。音程が揃ったところで客席が暗転、小曽根真さん(ピアノ)、中村健吾さん(ベース)、高橋信之介さん(ドラムス)、熊倉優さん(指揮)がステージへ登場するとひときわ大きな拍手が起こります。いよいよ開演です。 日本経済新聞:「ジャズピアニスト小曽根さん クラシック演奏に挑む」より 演目は ・モーツァルト:ピアノ協奏曲 第9番「ジュノム」ジャズ・アレンジ版  Ⅰ Allegro Swing  Ⅱ Andantino Tango  Ⅲ Rondo:Presto Be-Bop  編曲:小曽根真、オーケストレーション:兼松衆  (休憩) ・トリオ:ジャズ・インプロヴィゼーション ・小曽根真:Pandora (オーケストラ版編集:兼松衆) ・小曽根真:Cave Walk(オーケストレーション:岩城直也) ・小曽根真:No Siesta(オーケストレーション:岩城直也)  (アンコール)  ジャズピアニスト・小曽根真さんがクラシック音楽にチャレンジしていることは以前より知られていたことですが、実際にはライブで聞いたことがありませんでした。そしてこの度、PACオーケストラと共演することを知り、しかもジャズトリオとオーケストラがモーツァルトを演奏するなどプログラム構成への関心も高いものがありま

レビュー MQA+Video 〜WOWOWプロジェクト〜

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 2019年11月15日、千葉・幕張メッセ・国際会議場にてInter BEE Forum コンファレンススポンサーセッション「世界初のMQA音声を用いた映像コンテンツ配信デモ」が開催されました。 ボブ・スチュアート氏と鈴木氏(*1)  フォーラムは先ず、MQA Japan・鈴木氏の挨拶から始まり、MQA開発者のボブ・スチュアート氏によるMQAコーデック解説とMQA Liveデモ及びMQA+Videoの概要が語られ、次にMQA音声を用いた映像コンテンツ配信(WOWOWプロジェクト)の詳細説明へと移ります。WOWOW社・入交氏、アコースティックフィールド社・久保氏、MQA Japan社・鈴木氏、NTTスマートコネクト社・木村氏らが登壇し、各社の技術と役割を説明。 会場で配布されたMQA+Video・WOWOWプロジェクトの概要図  その内容に簡単に触れますと、WOWOWでコンテンツとなる映像と192kHz/24bitの3Dオーディオ(音声)を収録、アコースティックフィールド社のHPLプロセッシングによりバイノーラル化、MQAエンコードによりデジタル音声の滲みを少なくし48kHz/24bitへと折り畳み、NTTスマートコネクト社によるMPEG-4 ALSエンコード(*2)によりMP4フォーマットをロスレス(最大96kHz/24bit)にアップ&ダウンストリームするというもの。 WOWOW・入交氏の解説。デモでは映像と音声を聞き入る参加者。(*1)  会場ではプロジェクターとオーディオセットを用いたデモンストレーションが行われ、複数のコンテンツが流されると、映像と高品位な音声が違和感なく再生されることに深く感心いたしました。再生アプリはMPEG-4 ALS対応のVLCを用いていましたが、今後はSRCを搭載した専用アプリの開発とライブ配信の実証テストを行いたいとの意向が語られ、最後は評論家の山之内正氏による講評で終了いたしました。 MQAブースの試聴体験コーナー  MQAブースで実際に4KテレビとMeridian社Primeヘッドホンアンプとヘッドホン(ゼンハイザー)&イヤホン(Final E-500)による試聴を行いました。素材としての映像美と高音質な音声も

コラム ラウドネスウォー Part4 エルコ・グリム氏インタビュー

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 2019年10月17日、アメリカ・ニューヨークで行われた147th AES(Audio Engineering Society) カンファレンスセッション にて、オランダ・ユトレヒト芸術工科大学のEelco Grimm氏(以下、グリム氏)が「Analyzing Loudness Aspects of 4.2 million Music Albums in Search of an Optimal Loudness Target for Music Streaming」と題する論文を 発表 しました。  タイトルを意訳すれば”音楽ストリーミングの最適なラウドネスターゲットの調査における420万の音楽アルバムのラウドネス状況の分析”。グリム氏はかねてよりラウドネスウォーに関する研究を行っており、当ブログでも彼の提言を取り上げさせて頂いています(*1)。今回の論文は、提言の根拠となる被験者テストなどの詳細な調査研究データを含む内容です。  論文を読むと、はじめに研究の動機が簡潔に明示されています。音楽ストリーミングサービスTIDALはジャンプを最小限に抑えリスニングエクスペリエンスを改善するためにラウドネス・ノーマラーゼションの採用を検討していたが、音楽ストリーミングのラウドネス基準が無かったためデータを最適に使用する方法がわからなかったということ。そこでグリム氏が以下の二つの提案を行いました。 モバイル機器と据置機器の最適な音楽ストリーミング・ターゲットラウドネスレベルはどれくらいか? アルバムのコンテキスト以外を聴く場合、ソフトトラックとラウドトラックの相対的なラウドネスを保持する必要があるのか?  さらに、ボブ・カッツ氏(マスタリングエンジニア)のプロダクションを引用しつつ、トラックノーマライゼーションかアルバムノーマライゼーションか、アルバムノーマライゼーションの場合は全てのファイルの平均ラウドネスに基づくかアルバムの最もラウドなトラックに基づくかという制作サイドとリスナーサイド双方に関わる観点と、モバイル機器が音楽消費時間に占める割合の増加傾向とAES td1004勧告やCelenecルールの観点も加味し、上記提案をより具体化します。 数十年にわたる制作レベルと、スマートフォンなどの現在のパーソナルミュージックプレーヤーの制限

レビュー 菊池洋子 ピアノ・リサイタル モーツァルト 音のパレット

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 兵庫県立芸術文化センターで行われた「 菊池洋子 ピアノ・リサイタル モーツァルト 音のパレット 最終回 」へ行って参りました。秋闌ける、季節が移ろい冬の気配が次第に感じられるようになりました。1日の寒暖差は大きく、朝晩は冷えを感じる風を襟を立て防ぎますが、週末の日中はと言うと、陽光が差し込み散策するには心地の良い季節です。  公共交通機関を利用し会場へと急ぐ人並みに合流いたします。15分前に到着するとエントランスには大勢の人がチケットチェックに列を作り、CD販売ブースには人だかりだできていました。会場はKOBELCO 大ホール。ステージには中央にスタンウェイのグランドピアノと椅子。座席は1階前方右寄り。年齢構成はやや高めのオーディエンス。  開演を告げるアナウンスのあと客席が暗転。静まりかえった会場の下手からキラキラと光る装飾が施された真っ赤なロングドレスを纏った菊池洋子さんが登壇すると大きな拍手が起こります。菊池さんが中央に歩み寄りピアノに左手を置き深々と一礼し、いよいよ開演です。   演目は  ・モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第7番 ハ長調 K.309  ・モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第16番 ハ長調 K.545  ・モーツァルト:きらきら星変奏曲<ああ、お母さん、あなたに申しましょう>による12の変奏曲   (休憩)  ・モーツァルト:幻想曲 ハ短調 K.475  ・モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第14番 ハ短調 K.457   (アンコール)  今回のプログラムは菊池さんが「音のパレット」と題してモーツァルト作品を演奏する一年半に渡る企画の最終回。兵庫県立芸術文化センターでは同時期に河村尚子さんによるベートーヴェン作品の演奏会も行われており、当ブログではその第一回を レビュー を致しました。さて、モーツァルトのソナタは日常聞く機会が多い作品でもありますので、菊池さんのパフォーマンスに期待いたします。    モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第7番。強めの打音。ステージが明るく華やかに彩るように鍵盤から伝わる音がステージへ響き渡ります。明瞭で小気味良いアレグロに自然と頷きます。モーツァルト作品には身も心も委ねたくなるような楽曲が多々ありますが、アンダンテはまさに旋律に心身を委ねます

コラム クラシック音楽との出会いと「ショパン-200年の肖像」展

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 クラシック音楽との出会いはいつ頃だったでしょうか。  10代前半のある日、出張帰りの父が”ヴァーツラフ・ノイマン指揮、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団演奏、ドヴォルザーク:交響曲 第9番 「新世界より」”のCDを土産に帰宅しました。キオスクで買い求めたものだと思われますが、学生時代に聞いていた曲だという。小遣いでCDを買い始めた10代前半の子供への贈りものとしては些か唐突ではありますが、おそらく筆者の音楽ライブラリの中では古い部類に入る1988年リリースのCDです。  同時にその頃は映画にも関心があり、背伸びして映画館へ行ったり、深夜枠の映画をベータマックスのビデオテープへ予約録画したり、レンタル鑑賞していました。映画やテレビにはクラシック音楽やジャズ音楽が溢れており、2001年宇宙の旅「R.シュトラウス: 交響詩-ツァラトゥストラはかく語りき」、クレイマー、クレイマー「ヴィヴァルディ:マンドリン協奏曲」、プラトーン「バーバー:Adagio for Strings」など数え上げたら切りがありません。  もちろん学校の音楽室にはバッハ、ヴェートーベン、モーツァルトらの肖像画が貼られ、授業でカセットデッキから流れる”G線上のアリア”をぼんやりと窓の外を眺めながら聴いていましたが、音楽一家でもない少年にとってクラシック音楽とは父から貰った後にも先にも一枚のCDであり、映画・テレビの中の音楽の一部に過ぎませんでした。その後、趣味としての音楽や映画を遡る過程でクラシックやジャズに出会い、現在に至ります。ですから、筆者は意識して聴き始めて20年も経ていない”クラシック音楽のビギナー”です。  先日、兵庫県立美術館で開催中の「 ショパン-200年の肖像 」展へ行ってまいりました。一般的に美術展はBGMが流れていませんが、ギャラリー内に入るとショパンの楽曲が心地よく流れ、心穏やかに迎え入れてくれます。展示作品はショパンの音楽作品をモチーフにしたエッチングから始まり、膨大な点数の絵画、彫刻、写真、ポスター、映像は”楽章”と区分した展示テーマから成ります。  陳列作品と解説を見入りながら所々で心打たれ立ち止まり、ふと気がつくと館内を流れるショパンのノクターンに気づく。 公式サイト に掲載されているアリ・シェフェール「フリデリク・シ

レビュー エドガー・モロー 無伴奏チェロ・リサイタル

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 兵庫県立芸術文化センターで行われた「 エドガー・モロー 無伴奏チェロ・リサイタル 」へ行って参りました。10月に入り朝晩、窓から入る風には涼を通り越してやや寒さを覚え始めています。そんな週末の午後は突き抜ける青空に雲が気持ちよく浮かんで漂うような好天に恵まれました。公共交通機関を利用し、会場へと続く人波に続きます。  広場前にはいつものようにダンス練習に励む若者たち。エントランスには忙しく行き交う人々とCD販売のブースに人だかりができていました。KOBELCO 大ホールには開演15分前に到着。座席は1階中央。ステージには背板のない椅子と低い譜面台のみ。年齢構成は幅広く子供の姿も目立ちました。  開演を告げるアナウンスのあと客席が暗転。下手よりエドガー・モローさんがチェロを持ちステージに歩み寄ると客席は大きな拍手で迎えます。黒のスーツ、開襟の白シャツ、靴下は茶系のチェック柄、エナメルの黒靴。モローさんが客席に深々と一礼し、椅子に着座。いよいよ開演です。    演目は  ・J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007  ・J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV1009   (休憩)  ・J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第6番 ニ長調 BWV1012  (アンコール)  今回は2018年の兵庫県立芸術文化センター・KOBELCO大ホールでの リサイタル 以来、同会場での2度目の観劇です。しかもオール・バッハの無伴奏チェロ組曲のプログラムはモローさんの魅力がより伝わってくることを期待し、と同時に無伴奏チェロ組曲の曲目自体への渇望を催し、胸が高鳴ります。  バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番:お馴染みの旋律。チェロの胴鳴り豊かな響きがホールに満たされ、広い音域はステージ全体を楽器に見立てたかのような鳴り。プレリュードが終わったときに拍手したいくらい惹き込まれる演奏でした。バロック時代の空間を想像しながら現代の音をオーバーラップさせ聞いていました。  バッハ:無伴奏チェロ組曲 第3番:第一番につづき、目を閉じるとあたかもアンサンブルで弾いているかのような錯覚、重奏感のある厚みを音に感じます。あまりにも心地よい響きにこくりこくりと舟を漕ぐ周囲の客席。夢うつつに近い現

コラム ある日の僕と彼女とFMラジオ

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 休日の朝。雲ひとつない秋空。  ワックスで磨いた車を一周し、最後は車内を点検する。  父から借りた国産セダン。格好いいとは言えないが燃費が良い。  なにより背伸びしない車は学生には丁度いい。  帰りが遅くなると母に告げ、家を出る。  運転席に乗りパーキングに位置したシフトを確認、フーッと息を吐き出す。  キーを回すとエンジンがブオンと音を立てアイドリングが始まる。  エンジンの振動と僕の鼓動とが同期する。  エアコンのスイッチを入れ、カーラジオのツマミに手を伸ばす。FM80.2MHz。  ラジオプログラムはSunday Music Market。  Primal Scream「Rocks」が途中から流れる。  アクセルを踏むと車が走り出す。後部にはFM802のバンパーステッカー。    待ち合わせ時刻を少し遅れて到着すると、彼女は家の手前で待っていた。  車窓を開け手を挙げると、彼女は笑みを浮かべて近づいてくる。  助手席に置いていたバッグを慌てて後部座席へ放り投げ、席を空ける。  彼女はドアを開け車内を覗き込む。彼女「おはよう!」僕「おはよう」  車内で少し遅れたことを詫びる僕。少し怒ったふりして微笑む彼女。  一般道からインターチェンジを抜けて、高速道へと合流する。  少しぎこちない会話。カーステレオのカセットテープを回す。  夜な夜な作ったポップ&ロック集。ヒットソングに彼女の好きな曲を込めて。    彼女が小さく歌い始める。僕も一緒に口ずさむ。  Spitz「青い車」が流れ「この曲、好き!」と彼女。「いいよね!」と僕。  「本当?」と運転席に視線を移す彼女。「だってテープ作ったの、僕」。  二人でくすくす笑い出す。テープはB面へと切り替わる。  「いい天気。気持ちいいー!」と彼女。「Yeah!」と僕。  彼女の楽しそうな横顔。  アクセルペダルを踏み込み車を加速させる。  やがてインターチェンジが見えてくる。  一般道へ降りるとテープがA面へと戻る。  カーステレオへと手を伸ばしラジオへ切り替える。FM80.2MHz。  二人でラジオから流れる音楽を口ずさむ。  彼女の歌声を聞きながら目的地のパーキングへと車を停める。  

レビュー ヴェロニカ・エーベルレ ヴァイオリン・リサイタル

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 兵庫県立芸術文化センターで行われた「 ヴェロニカ・エーベルレ ヴァイオリン・リサイタル 」へ行って参りました。台風15号の影響もあり西日本は猛暑が戻ってまいりましたが、三連休の最後の祝日の午後は、快晴でも陽光はやや強さが弱まり、湿度の低いカラッとした風が時折そよぐ良い気候となってまいりました。会場の入り口へと急ぐ人波に合流いたします。  会場はKOBELCO 大ホール。ステージには中央にスタンウェイのグランドピアノと椅子、その前に譜面台。座席は1階中央右寄り。年齢構成はやや高めのオーディエンス。開演を告げるアナウンスのあと客席が暗転。静まりかえった会場の舞台下手側からヴァイオリンのチューニング音が聞こえてきます。しばし聞き入りますが、ボウイングが見えてくるかのような、すでに音楽となっていました。  チューニングの音が止まり、下手のドアが開くと真紅のドレスを纏った ヴェロニカ・エーベルレ さんがステージへ登壇します。客席は大きな拍手で迎えます。次いでピア二ストの 児玉麻里 さんは対照的にシックなトーンのカラフルなドレスで後へ続きます。二人が横に並び客席に一礼し、いよいよ開演です。 YouTube「Veronika Eberle & Edicson Ruiz Plays Oscher's Passacaglia」より。    演目は  ・チャイコフスキー:なつかしい土地の思い出 Op.42   「瞑想曲」「スケルツォ」「メロディ」  ・ シューベルト:幻想曲 ハ長調 D.940 Op.159   (休憩)  ・バルトーク:狂詩曲 第1番  ・パガニーニ:カンタービレ ニ長調 Op.17  ・フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調  (アンコール)  今回のプログラムは「Story 物語」とタイトルが付されおり、これはフランクのソナタが結婚のお祝いとして書かれた曲ということからエーベルレさんがヒントを得て、このテーマでプログラムを作り上げられた旨が当コンサートフライヤーに記載されています。彼女のコンサートの意図を意識しながら、ピアニストとしてご活躍中の児玉麻里さんとの共演も楽しみの一つです。   チャイコフスキー:なつかしい土地の思い出 Op.42。冒頭、ピアノの響きを意識します

Autumn L'Autunno / UNAMAS Strings Sextet [music review]

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 アントニオ・ヴィヴァルディの『四季』と言えば、クラシック音楽のなかで最もポピュラーな作品の一つ。なんとなくオフィスやホテルのロビーでBGMとして日常的にメロディが流れているイメージです。ではいつ頃、初めて聴いたのか。おそらく学生時代に音楽の授業で「春」を聴いたとき。あるいはラジオやテレビから流れてきたとき。もはや定かではありません。  UNAMAS Strings Sextetによる2019年6月発売のアルバム「ViVa The Four Seasons」からの1トラック。アートワークはライトブルーにピンクのフローラルや扇子と思しきイメージのレイヤー。ソフトなトーンのパステルカラーは落ち着いた感じを受けるジャケットデザインです。  レーベルは UNAMASレーベル 。録音は2019年1月28-29日、長野県軽井沢・大賀ホールにて行われ、レコーディング・ディレクターはHideo Irimajiri氏(Armadillo Studio)、デジタル編集はJun Tajiri氏。レコーディング、ミキシング、マスタリングとプロデューサーはMick Sawaguchi氏(Mick Sound Lab)がクレジットされています。  UNAMSAレーベル公式YouTubeチャンネル "ViVa The Four Seasons" 4K interview インタビュー編  イントロダクション。自然のリアルなサウンドに惹き込れます。『四季』はヴィヴァルディが作曲したヴァイオリン協奏曲の中の4作品。さらに「秋」は1.アレグロ、2.アダージョ・モルト、3.アレグロの3楽章から成り、ヴィヴァルディが描写したと言われているソネットが付され、楽曲のシーンをイメージすることがきます。"ViVa The Four Seasons"ではおおよそ11分の「秋」3楽章が1トラックとして流れます。  タタタタタータタと耳に馴染むフレーズ。ヴァイオリンが描く鮮やかな主旋律をヴィオラとチェロの中域とコントラバスの低域がサポートするウェルバランスなクリアサウンド。UNAMAS Strings Sextetではスタンダードなオルガンやチェンバロに代わり、ヴァイオリンソロ x1とヴァイオリン x2、ヴィオラ x1、チェロ x1、コ

レビュー 佐渡裕 & スーパーキッズ・オーケストラ 2019

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 兵庫県立芸術文化センターで行われた「 佐渡裕とスーパーキッズ・オーケストラ 2019 」へ行って参りました。早朝、窓を開けるとようやく冷めた風が入り、厳しい夏の名残を感じ始める昨今。しかし昼過ぎからは気温が上がり、湿度が高く汗ばむ陽気となりました。日中はまだまだ陽光が強く射し、緑深く生い茂る歩道を歩きます。  会場へは20分前に到着。広場にはダンス練習する若者たち、ぼんやりと往来を眺める人たち、待ち合わせらしき人たちといつもの光景。2階のエントランスホールに入ると活気で溢れ、いつもより若年層が多く目立ちます。下は小学生くらいでしょうか、家族連れや団体での来場者が方々にいらっしゃいました。KOBELCO 大ホールの座席は2階中央寄り。  大ホールのステージにはセンターに赤い絨毯の指揮台と、それをとり囲むように弦楽団の椅子が配置され、コントラバスが正面背後に。上手後ろ寄りには白い筐体に赤い縁取りのチェンバロが視界に入り、演目の一部にあるバッハ・ブランデンブルク協奏曲が脳裏を過ぎります。チェンバロの演奏は日頃あまりお目にかかれませんので期待感を催します。  開演間近のアナウンス後、客席の照明が暗転しステージ下手の扉が開き、佐渡裕さんがステージに登壇すると客席から大きな拍手が起こります。佐渡さんがマイクを握り、今回のコンサートの主旨説明がなされ、そのあいだに スーパーキッズ・オーケストラ (SKO)の皆さんがステージでスタンバイ。いよいよ開演です。  演目は ・ホルスト:ゼント・ポール組曲 Op.29-2より 1.Jig ・ピアソラ:アディオス・ノニーノ ・チャイコフスキー:メロディ「なつかしい土地の思い出」Op.42より第3曲 ・エルンスト:<夏の名残のバラ>による変奏曲 ・ドヴォルザーク:弦楽六重奏曲 イ長調 Op.48より 第1楽章:アレグロ・モデラート ・J.S.バッハ:ブランデンブルグ協奏曲 第3番 ト長調 BWV1048 第1-第3楽章  (休憩) ・ウィーラン:「リバーダンス」より「アメリカン・ウェイク」 ・モーツァルト:弦楽四重奏曲 第17番 変ロ長調 K.458「狩」より第1楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサイ ・池田明子 編曲:日本の歌百選より「日本の歌」 ・レスピーギ:リュートのための古風な

コラム No Audio Too Taboo - 公正さについて。ある視点から -

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    今日、我々は日常的に多種多様な国内外の音響製品に接する機会があります。そしてそれに付随するサービスも一様ではなくまた異なります。たとえば製品管理において、シリアルナンバーのみ管理しているメーカー、シリアルは必須だが便宜的に顧客情報を管理しているメーカー、シリアルも顧客情報も一元管理するメーカーと姿勢は様々です。そこへ代理店が加わるとさらに複雑になるケースがあります。  たとえば、とある海外メーカーが製品シリアルと顧客情報を一元管理していたとします。製品アップデート時には”必ず”シリアルと顧客情報が必要になります。故障等のサポートが必要な場合は代理店を通じてサービスを受けることになりますが、その際はさらに”代理店が発行した登録番号”と顧客情報が必要になります。代理店は中古品・二次流通品について原則的にサポート対象外とし、ユーザーが中古品を売買する際にはメーカーの顧客情報を自ら名義変更する必要があります。  後者のような顧客管理は代理店の対応からサービスという要素以外に流通管理の側面が垣間見えてきます。経験上、メーカー代理店サイドの厳格な管理とユーザーサイドの融通はトレードオフを生じることがありますので、機能も含め顧客管理やサービスを変更する際には、メーカーサイドによるユーザーサイドへ丁寧な説明努力とユーザーの利益確認などのコミュニケーションは双方にとって合理的行動であり、これらは権利や規約などを持ち出すまでもなく、モラルや公正さという観点で然るべきことと捉えています。  また、言うに及ばず国内外には組織・個人を含む複数のオーディオメディアが存在しています。彼らは日々リリースされるオーディオ機器・関連製品・イベントニュースのほか、レビュー・コラムを掲載しています。筆者の知るところでは、彼らのほとんどは紙媒体やWEB、SNS等のクロスメディアを採用し、プリントとデジタル・サブスクリプションサービスのために出版事業とWEBメディアの運営を行ない、我々オーディオファン、音楽愛好家はそれらの情報に日々接しています。  我々が彼らメディアに期待することは何でしょうか。いち早くニュースを掲載する速報性、製品からサービスまで広く取り上げる総合性、情報に誤りがない確実性、複数の角度から観察する多面性、製品を高い知見で評価する専門性、様々な意見を受け入れる

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