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レビュー 立体音響ラボ バーチャル・オーディオ・リアリティの世界

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  株式会社アコースティックフィールド さん主催のACOUSTIC FIELD presents『立体音響ラボ Vol.7』立体音響ワークショップ #7 「バーチャル・オーディオ・リアリティの世界」へ行ってまいりました。 場所は東京・お茶の水駅からすぐのRittor Base。地下1階へ階段を下りていきます。 扉を開けると、薄暗い室内にPCやモニター類。  暗幕カーテンの中に3つの球体、アコースティックフィールド・久保二朗氏とスタッフが機材を調整中。  ヘッドホンを装着しタブレットPCをキーボード操作している模様。NGを前提にカメラを構えると、撮影OKが出ました。複数のアプリケーションが起動しています。  シュアーのヘッドホン。ヘッドバンドにトラッカーが装着されています。  球体はシルバーカラーのスピーカー。ワイヤレス?実はダミー。体験者に方位感覚を示すために設置しているとのこと。  暗幕カーテン内で照明を落とすとダミースピーカーだけが浮き上がってきます。体験者はこのトライアングルの真ん中に立ち、ヘッドホンとリュックサックを背負い立体音響を体験することになります。  ここで一部体験者インタビュー。 イベンター:面白かった。もし暗幕でなかったら、と想像した。 制作者:視覚を奪わないのでいい。雰囲気作りが短い時間でできる。 プログラマー:ヘッドセット使ってない。土砂降りだけど濡れていない。絵がないぶん想像する。映像と組み合わせてもいいが、単純に音だけでもいい。音だけの方が解像度があるようだ。 会社員:音が当たる。面ではなく音が降ってくる感覚。沖縄にいるような不思議な体験。インスタレーションのようなアートで使われることになれば世界観が広がるのではないか。 サウンドデザイナー:素敵。敏感さが素晴らしい。立体感のある雨がいい。映像より音だけの方が広がるのか。 サウンドデザイナー:高さ方向が出ていた。動いているか感覚があった。画面がないことが新鮮。  筆者の感想も重なりますが、冒頭は音の定位音像や質感に聴感が集中しました。やがて、近くに聞こえる音に手を伸ばすが何も無い。音がある方へ歩み振り向くが何も無い。天井から降るモノに包まれているはずが、身体には何も及ぼされていない。不思議な感覚の臨場感と没入感。  さらに、ヘッドマウントディスプレイのない状態は視野に自由さが加わり、立体音

おかげさまで500,000アクセスを超えました。

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 Dear all readers  Even in Covid-19 pandemic situation, nature changes slowly. It's a fruitful autumn in my country. The picture is "Carnation and Rose".    My blog has achieved 500,000 accesses in this month.  The last 400,000 accesses were in Mar 2019. It has 100,000 accesses in a year and a half, an average of 180 daily accesses, and PV becomes further.  I'm just grateful and to express my gratitude to all readers. I appreciate for your continued support and encouragement. Stay Safe 25 Oct 2020 - INORI  読者のみなさまへ  澄み渡る空が時と共に藍から紅のグラデーションアートを作り出すこの季節にひときわ愛着を持ちます。  このたび当ブログは500,000アクセスを超えるに至りました。  前回の400,000アクセスが2019年3月、1年半余で100,000アクセス。1日平均180アクセスを頂いていることになり、PVはそれ以上になります。これはひとえに読者のみなさまのおかげです。本当にありがとうございます。  最近は投稿が滞っておりますが、これからも音楽と音響について筆者の関心事を読者のみなさんと共有できるよう、日々研鑽してまいりたいと考えております。  今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。 2020.10.25 みのりのころ INORI

コラム サンシャイン

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深い緑の中をゆっくりと縫うように走る電車。車窓からは瑠璃と紺碧の水平線が時折り垣間見える。太陽はすでに高く輝き、紫外線は窓を通して左腕に照りつける。僕は2泊3日の夏合宿を終え、青春18きっぷを利用した普通電車での帰路にあった。  「せんぱい?」 横を見ると後輩がひとり、僕の顔を覗き込んでいた。 「奴ら、うるさいだろう?」と返すと、クスッと笑う。 「一番前からの写真を撮りたくて」 「座る?」と僕は隣に視線をやる。 「はい」 「あっという間だったね」窓外の景色を眺めながら呟く僕。 「楽しかったです」 「朝まで浜で遊んでいた奴がいるんだって」と僕。 「そうなんですか?」 「馬鹿だよね」と僕。二人で笑う。 「先輩、何を聴いているんですか?」 「聴く?」僕はイヤホンを外し、左側を手渡し、右側を右耳に付け換えた。 窓外の風景はいつのまにか街に変わっていた。 僕らはいつのまにか音楽と電車のリズムで夢の中へ誘われていた。 隣に座っている後輩の頭が僕の肩に寄りかかっている。 車両連結部分のドアが開いた音で僕らは背筋を伸ばした。 携帯には彼女からメールが届いていた。 「ナツヲオウカシテキタ?」 「先輩は学校に寄りますか?」 「家に帰るけど?」と僕。 「私もです」 電車がターミナル駅に到着し夏合宿は解散した。 乗り継ぎホームの向かいには6、7人の部員たち。 皆、うちわをあおいでいる。 エアコンの効いた電車に乗車し横並びに座る。 「つづき、聴く?」と僕。 やがて駅に到着し、後輩はイヤホンの片方を返すと一礼し下車した。 僕が手を振ると、手を振り返した。 もうすぐ暑い夏が終わる。  *この物語はフィクションです。 関連投稿: コラム 15%の失恋ソーダ コラム ある日の僕と彼女とFMラジオ

Adagio in G Major, D. 178 / Noelia Rodiles [music review]

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  Noelia Rodiles による2020年3月発売のアルバム「The Butterfly Effect」の中の1トラック。アートワークは黒色に塗装された外壁と思しき背景に真紅のドレスを纏ったノエリア・ロディレスさんのポートレイト。裏表紙まで外壁が続くショットがモダンです。作曲はフランツ・シューベルト。ロマン派を代表するコンポーザーの1人。  レーベルはEudora Records。録音は2019年8月19-21日、スペインのAuditorio de Zaragoza(劇場)にて行われ、プロデューサーとレコーディングエンジニアはGonzalo Noqué氏、ピアノ技師はFernando Lage氏がクレジットされています。  COVID-19感染症の伝播は、東アジアから欧米へと拡がり、ついにアフリカ大陸まで波及するパンデミック状況を生じさせ、人類の生命・生活・経済に多くの影響と脅威を与え続けています。私の住う地域では、つい先日、緊急事態宣言の解除がなされたばかりですが、この度の行動変容は現在でも継続しています。  緊張感を伴う社会状況の混乱期にあってリリースされたピアノ作品です。なかでもノエリア・ロディレスさんのシューベルト・アダージョは、マイルドに心の琴線に触れてきました。レレレラミとシンプルな主旋律がゆったりと鍵盤を流れ、明活さのなかに静謐さを兼ね備え、たおやかな旋律でありながらエモーショナルな雰囲気も漂います。  自室の窓外を見るに季節の移ろいを感じながら、温暖な天気が続く今季節が作品とマッチします。さらに、森林遊歩道を歩きながら木漏れ日を見上げたときに薫る、緑と陽光の匂いが入り混じる清々しい体験に重なります。この数ヶ月は演奏会へ出向く機会が無くなりましたが、いずれ来る希望の日常を待つに、穏やかにポジティブになれる演奏作品との思いで聴いています。      アルバム全体を通じては、ロマン派の作曲家(シューマン、メンデルスゾーン、シューベルト)と現代のコンポーザー達との楽曲で構成され、ノエリア・ロディレスさんの演奏を楽しめるピアノ小品集です。当アルバム作品レゾリューションはMQA 24bit/352.8kHz。他にはSACD、DSF 1bit/11.2MHz、FLAC 24bit/192kHz、5.0ch 24bit/

L'eau et Sol / Masaaki Enatsu [music review]

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  Masaaki Enatsu による2020年3月発売のアルバム「Piano Pieces」の中の1トラック。アートワークは淡いブルーとピンクの背景にブラック・レッド・シアンカラーが球体を成すイメージ。もう一つのアートワークはピアノの鍵盤と思しきイメージにブルー系のテキスタイルのグラーデーションが施されたイラストレーション。  レーベルはUNAMAS。レコーディング・マスタリング・プログラミングと作曲・パフォーマンスはすべてmarimo RECORDS主宰・Masaaki Enatsu氏。当アルバムにはブックレットにスコアが掲載されており、TranscribedはYoichi Tsuchiya氏がクレジットされています。    イントロはA♭の第一小節とGの第二小節の対比。これが題名にリンクする音なのかと耳を傾ければ、もう一つのピアノの音が現れます。2オクターブ高いCがクリスタルのような硬質な透明感をイメージさせます。L'eau et Sol。水と土。おそらく第一ピアノがクリスタルのように輝く水を、第二ピアノが多少の起伏がある大地を表現していると捉えました。  非常にゆったりとしたテンポを第二ピアノが刻み、そこは静的な安定感を催します。それとは対照的に自由でそれでいて第二ピアノの音に沿うように流れる第一ピアノが動的な表現を繰り広げます。左手のベース音は深く、右手の和音はリフレインし心地よく、第一ピアノはトランスペアレンシーな音を発出し、すべてがミックスしたサウンドが豊かな余韻を湛え空間に響き放たれます。  2分03秒。その短さゆえに水と土 とが織りなす自然世界をイメージします。窓外には山の稜線を望みますが、山中ではまだ少し冷たい透明な水が暖かさを取り戻しつつある土の上をキラキラと流れていることでしょう。アルバムには同タイトルのEnsemble Versionも収録されており、そのエレクトリックサウンドはより鮮やかにイメージを膨らませ展開させます。  アルバム全体を通じては季節を感じさせる楽曲で構成され、一年中楽しめるノンジャンルなピアノ小品です。当アルバム作品レゾリューションはMQA 24bit/96kHz。他にはFLAC 24bit/96kHz、DSF 1bit/11.2MHzなどで配信( e-onkyo 、 mo

The Wind Fiddler / 吉田篤貴 EMO Strings

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  吉田篤貴 EMO Strings による2019年3月発売のアルバム「The Garnet Star」(ザ・ガーネット・スター)の中の1トラック。アートワークは宇宙と思しき背景に動的な球体がレイヤーするイラストレーション。ガーネットスターとはケフェウス座μ星が赤いため名付けられたとか*1。裏表紙には吉田篤貴さんがヴァイオリンを演ずるショット。  レーベルは T-TOC RECORDS 。録音は2018年10月29-31日、T-TOC STUDIOにて行われ、レコーディング・ミキシング・マスタリングは Takaaki Konno 氏、ディレクターは Megumi Sasaki 氏、サウンドプロデューサーはAtsuki Yoshida氏がクレジットされています。作曲はM5,9を除き吉田篤貴さん(M5:挾間美帆さん、M9:桑原あいさん)。      Aの音が鳴りコンサートチューニングの様相がそのままイントロダクションへとつながります。コントラバスのリズムにチェロが主旋律をリフレインし、ヴァイオリンが加わり彼のアイリッシュミュージックを想起します。ソロがデュオ、デュオがトリオ、トリオがさらにアンサンブルへと重なるにつれ、音に重厚感が増す主旋律。そこへカデンツアでは不規則で不安定な旋律に変化します。    再びサビのリフレインのあと、今度は明るくメロディアスなソロパート。そこで気付きます。ピュアであり、ハスキーであり、ツヤがあり、多様な弦楽器のサウンドテクスチャーが弱音から強音までリズミカルに現れては折り重なるダイナミクス。いつしかスピーディなテンポに心と体が揺れ動き、ついには迫力ある爽快なクライマックスを迎える頃には、複合的な音楽要素に触れる思いがいたしました。  ライナーノーツに目を通すと、フィドル奏者へのオマージュとの記載があります。なるほど、録音を聞いているあいだ、演奏している10人のプレイヤーたち、吉田篤貴さん(Vn)、 沖増菜摘さん(Vn)、須原杏さん(Vn)、青山英里香さん(Vn)、梶谷裕子さん(Vn/Va)、萩谷金太郎さん(Va)、中田裕一さん(Va)、島津由美さん(Vc)、伊藤ハルトシさん(Vc)、西嶋徹さん(Cb)が”颯爽と興じるフィドル奏者たち”に覚えました。さぞやライブ会場で聞く”The Wind Fiddle

Once I loved / 守新治トリオ [music review]

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 守新治トリオ(Shinji Mori Trio)による2018年5月発売のアルバム「CASK SESSIONS(カスク・セッションズ)」の中の1トラック。 オリジナルは作曲Antonio Carlos Jobim、1961年・Joao Gilberto「Joao Gilberto」にあります(*1)。ジャズドラマー・守新治がベースに笠原本章、ピアノにウラジミール・シャフラノフを迎えたトリオ作。  レーベルは Doluck Jazz 。録音は2017年12月24-25日、横浜・希望が丘・CASKにて行われ、レコーディング・ミキシング・マスタリングはShigeaki Takasaka氏(SED Studio)、プロデューサーはKiyotaka Hirai氏がクレジットされています。ジャケットデザインはパステルカラーの水彩画のようなイメージと、ジャッケット裏にはセッション時のショットがデザインされています。  トラック1への弾ける拍手からはじまるトラック2。冒頭、窓辺のレース編みのカーテンがそよ風にたなびくような、うっとりするエレガントなピアノの旋律に耳を預けます。1分余りのイントロダクションを経てドラムスのシンバルの音が入り、タイトで深いベースの胴鳴りがメロディに重なります。ボッサのインプレッシブなメロディと小気味良いリズムに合わせて体が動きます。  ウラジミール・シャフラノフさんの技巧的なアドリブを繰るヤマハのピアノの音は色鮮やかな艶があり、守新治さんと笠原本章さんのリズム隊が秀出ステーブルにサポートします。続いて、ときに高らかに歌い上げ、ときに渋くため息をつくような複雑な表情を見せるベースのインプロビゼーション。そこへあってドライでクールなドラムの熱を帯びた律動。  歌唱のない「Once I loved」ですが、あたかもステージで歌い踊っているかのようなイメージングがプレイで再現され、ピアノの旋律がベースやドラムの機微と絡み合いエキサイティングに融合する様は、楽曲の中で揺れ動く人の心を反映しているようです。やがてセンチメンタルなエンディングを迎えます。美しく儚い11分間です。  曲名は失念いたしましたが、以前あるイベント会場で当アルバム作品が流れていました。そのとき自然に体がスウィングし、感じたことは卓越して音楽性豊かな録音だと

Felix / 仁詩 Banda Nova [music review]

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  仁詩 Banda Noba による2019年8月発売のアルバム「FELIX」と同名のトラック。 バンドネオン奏者・仁詩(hitoshi)のリーダー作。アートワークはバンドネオンの蛇腹を大きく広げる仁詩さんのポートレイト。ジャケットデザインと写真はT-Toc ReocrdsのTakaaki Konno氏。  レーベルは T-TOC RECORDS 。録音は2019年5月27-28日、T-TOC STUDIOにて行われ、レコーディング・ミキシング・マスタリングはTakaaki Konno氏、ディレクターは Megumi Sasaki 氏、プロデューサーは Takaaki Konno 氏がクレジットされています。  ピアノの音の胞子が鍵盤を上を行ったり来たり飛び跳ねながら開花するようなインプレッション。続いて、アコースティックギターの弦が指に擦れサウンドホールに共鳴する音にはウッディなテクスチャを感じます。さらに鳥が囀るかのような音はバンドネオンでしょうか。イントロから自然を意識するサウンドメイキングに惹き込まれます。  Gコードから始まるバンドネオンによる旋律に耳を預けると、実にナチュラルで心地よい響きとリズム。ふくよかで薫り高い風景を見ているかのようなイメージを抱きます。印象深いサビのメロディは、気がつくと次の一節で鼻歌交じりに身も心も自然に動き出しています。まるで以前から知っている歌い慣れた楽曲のような愛着さえも感じます。  再び冒頭のようにピアノ(阿部篤志さん)、ギター(田中庸介さん)、バンドネオンがエスプリあるハーモニーを奏で、ピアノとバンドネオン、ギターによるインプロビゼーションには楽器を繰るプレイングがリズムの中で遊ぶかのように躍動し、そのサウンドはピュアでありたおやかでありやさしく、いかにも愉しげなトライアングルを形成しています。 仁詩 YouTubeチャンネル - 仁詩・田中庸介・阿部篤志 トリオ ダイジェスト  おおよそ一年前、仁詩さんの生演奏を観覧する機会がありました。神戸市室内管弦楽団の演奏会にソリストとしてご参加されいていたときのことです(*1)。オーケストラのなかで”悪魔の楽器”と称されるバンドネオンを巧みに操り、叙情豊かに表現する仁詩さんのパフォーマンスに魅了されるひとときで

コラム 15%の失恋ソーダ

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カフェテーブルに差し込む陽だまりを挟んで、僕らは向かい合い座っていた。 彼女はクラムチャウダーをスプーンでかき混ぜながら呟いた。 「仕方ないじゃない?」 少し戯けた感じがする。 Little Glee Monster 「好きだ。」 僕らは長い長い廊下の途中で知り合った。 彼女とはクラスも部活動も全く違う同級生。僕は理系で彼女は文系。 彼女が教室を通り過ぎる姿が以前から少しだけ気になっていた。 ある日、友達と教室の前でふざけていたら彼女の友達から声を掛けられた。 そして彼女は微笑みながら僕との会話に加わった。 僕らの距離が教室との距離より短くなるのは時間の問題だった。 sumika 「センス・オブ・ワンダー」 「そうそう、音楽テープありがとう」と彼女。 「あげるよ」と僕。 「そう?」と彼女。 「何が好き?」と僕。 「んー?」と斜め上を見て考え込む彼女。 僕はその顔と仕草が好きだ。 back number 「花束」 廊下ですれ違うと、僕らは笑顔で会話を交わすようになった。 彼女は僕のクラスを通る際、廊下から僕の席の方を見るようになった。 そしてある日、彼女はメモを丸めて僕に軽く投げつけた。 ポケットに入れたメモを読むと他愛のない内容だった。 他愛のない内容を僕も書いて丸めて彼女に渡した。 誰にも気づかれずに二人だけで交わす手紙。 でもそれは僕だけの思い込みだった。 彼女から友達へ。いつのまにか僕らの恋は周知になっていた。 300人超の同級生のなかで、彼女と出会えた幸運。 まふまふ 「それを愛と呼ぶだけ」 カフェの窓の外を歩く同級生達が目に入った。 「気づくかな?」と彼女。 「いま入って来られても困るよ」と僕。 苦笑しながらソーダ水を喉に流し込む。 「やっぱりテープ返す」と彼女。 「うん」と僕。 「もっと早く付き合えていれば良かったね」と彼女。 「じゃあなぜ?」と僕は言い出しそうになり、口をつぐんだ。 彼女の決心を崩せる自信がない。 King Gnu 「Teenager Forever」 思えば皆が100%、いや120%を目指すときに僕は85%しか目指せなかった。 進路指導では将来の進む道をサラリーマンと答えた。 具

レビュー ロッセン・ミラノフ & 児玉 桃 「チャイコフスキー」

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 兵庫県立芸術文化センターで行われた『 第121回定期演奏会 ミラノフ&児玉桃 ザ・チャイコフスキー! 』へ行って参りました。例年は節分過ぎから気温が落ち着きますが、今冬は節分直後に寒波が押し寄せ、その後すぐに気温が上向く変則的な気候に左右されています。週末の午後は湿度を感じるあいにくの曇り空でしたが、穏やかな天気は人々の外出を誘うようです。  開演15分前に到着するとエントランスホールには既に大勢の人が行き交い、チケットチェックの入口へと吸い寄せられます。会場はKOBELCO 大ホール。ステージには中央にスタンウェイのグランドピアノと椅子。その背後に赤い絨毯の指揮台。オーケストラセットはフルに近く、ステージ下手にオルガンと2台のハープ、ステージ背後には左手に銅鑼が目に入ります。ティンパニ奏者が開演直前までチューニングし、ステージ裏から管楽器の音が聞こえます。  座席は2階左寄り。年齢構成は中高年が多い印象。開演を告げるアナウンスのあとステージが明るく照らされ、両手よりPACオーケストラ団員が登壇すると拍手が起こります。コンマスの豊嶋泰嗣さんがチューニングを始め、揃ったところで客席が暗転、下手より赤いドレスにシルバーゴールドのアクセントを纏った児玉桃さんと黒のタキシード姿のロッセン・ミラノフさんが登場するとひときわ大きな拍手が起こります。ミラノフさんと児玉さんが客席へ一礼し、いよいよ開演です。 PENTATONE公式YouTubeチャンネル 「Mari Kodama & Momo Kodama: Tchaikovsky Ballet Suites for Piano Duo」   演目は  ・チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23   (アンコール)   (休憩)  ・チャイコフスキー:マンフレッド交響曲 ロ短調 Op.58   (アンコール)  今回のプログラムはオール・チャイコフスキープログラムです。ピアノ協奏曲 第1番は誰もが一度は耳にしたことがある有名な序奏と録音でも人気のある作品です。一方、マンフレッド交響曲は番号付けのない唯一の交響曲作品で普段は耳にする機会が滅多にありません。前半はピアニスト・児玉さんとPACとの共演、後半はミラノフさんのタクトが聞きどころ見どころ。

コラム オーディオと鋏は使いよう - 試聴機貸出と合理性の考察 -

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 ある日、試聴機をお借りしました。時期は異なりますが機器のカテゴリ、貸出期間や負担条件などの貸出形態はほぼ同一です。 A社から届いた梱包を開けると、製品本体の他に取扱説明書が入っていました。 B社から届いた梱包を開けると、製品本体の他に取扱説明書を含む付属品一式、納品書・梱包明細書が入っていました。  A社の梱包には電源ケーブルが入っていないことに気付きました。筆者は電源ケーブルを余剰に所有していましたが、念のためA社へ連絡を入れると”入れ忘れ”という返答があり、その後3ピンプラグの電源ケーブルが送られてきました。このとき、筆者はふと想像しました。もし3pin-2pin変換プラグを所有していない方であれば、コンセントに差込むとき変換プラグを用意する必要があるやもしれず、おそらくご不便なのではないかと。  B社の梱包には梱包明細書が入っていましたので、梱包物と明細とを見比べながら過不足がないこと、製品の外観にダメージ等がないことを確認し、早速システムに滞りなく追加インストールしスムーズに動作確認へ移ることがことができました。 A社の試聴機をお返しする時が来ました。できるだけ梱包時に近い状態に戻し再梱包しますが、開封時の梱包物記録は筆者が作成した開封時リストに依るものです。 B社の試聴機をお返しする時が来ました。できるだけ梱包時に近い状態に戻し再梱包しますが、梱包時と開封時の梱包物記録はB社が作成した梱包明細と筆者の記録に依るものです。  さて、試聴機貸出サービスはメーカー代理店側がコンシューマ側に自宅等で製品評価できる機会を提供し、コンシューマがそのサービスを享受するものです。上記は試聴機貸出サービスを利用した際のシーン一例をご紹介したもので、同一サービスであるにも関わらず、筆者はA・B両社の製品評価は別として、サービスに差を感じました。どこにどのような差を感じたのでしょうか。  端的に言えば、A社は”入れ忘れ”というヒューマンエラーを起こしています。ヒューマンファクターによるミスは誰にでも起こりうることなので、筆者はそのミス云々について殊更に論うつもりはありませんが、同様のミスを繰り返して放置することが良いことなのかと言えばそうではありません。したがって、ヒューマンエラーを生じないように対策を構じることが賢明と考え

レビュー 佐渡裕・フォーレ「レクイエム」

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 兵庫県立芸術文化センターで行われた『 阪神淡路大震災25年事業 第120回定期演奏会 佐渡裕 フォーレ「レクイエム」 』へ行って参りました。前日の1月17日は空に雲が覆い時折陽光が差し込む天気でしたが、翌18日は快晴となりました。いよいよ冬本番の寒さ。コートの襟を立て風を防ぎ、陽が照る日向を見つけ出しながら遊歩道を歩きます。  開演20分前に到着すると広場にはダンス練習に勤しむ若者たちや待ち合わせらしき人々が視界に入ります。エントランスホールには大勢の人がチケットチェックに列を作り繋がっています。会場はKOBELCO 大ホール。ステージには中央にスタンウェイのグランドピアノと椅子。その背後に赤い絨毯の指揮台。ステージ下手にオルガン、オーケストラセットの背後にコーラス用ステージを組んでいました。コントラバス奏者が直前まで音合わせをしています。  座席は1階中央後方。年齢構成は若年層からシニア世代まで多様。開演を告げるアナウンスのあとステージが明るく照らされ、下手より登壇した佐渡裕さんがピアノの側まで歩み寄ります。佐渡さんからは阪神淡路大震災25年、兵庫県立芸術文化センター開館15周年、第1日目の1月17日は午後5:46分に開演し参加者全員で黙祷したことが語られ、拍手は震災で亡くなった方や演奏するオーケストラ、さらに兵芸の関係者の方々へ送って下さいと申し出がありました。 演目は  ・べートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.61 - ピアノ協奏曲版   (休憩)  ・フォーレ:レクイエム  今回のプログラムは阪神淡路大震災の犠牲者追悼のために組まれたもの。そのなかで、ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ピアノ版の演目は日常でも珍しく、フォーレ:レクイエムとは同じニ長調であることが佐渡さんの解説にありました。両方とも美しい楽曲です。また出演者もピアニスト:菊池洋子さん、ソプラノ:幸田浩子さん、バリトン:キュウ・ウォン・ハンさんと魅力的な布陣です。    佐渡さんが一旦下手へと下がり、PACオーケストラがステージへ登壇すると拍手が起こります。ゲスト・コンサートマスターのアントン・バラコフスキーさんが客席へ一礼しチューニングが始まります。揃ったところで客席の照明が落とされ、下手より黒のドレスを纏った菊池洋子さん

ブログ10年目を迎えて

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   ”今日は阪神・淡路大震災から15回目、追悼の日。   近くの慰霊碑に献花してきました。   あの日のように、空気はまだ冷たいけど、   空を見上げると、快晴!冬の空。”(*1)   2010年1月17日21時22分、 初稿 は阪神淡路大震災から15年目の日に記しました。それまでの15年間は若いなりの懸命さの裏で、一人思う日々でもありました。それは”あの時、もっと何かできなかったのだろうか”という心残り(*2)。当時出した答えは”たちあがろうとする人々を支えながら共にいること”でした。やがて十余年の歳月が経ち、自分もその一人だということを自覚し、自分なりに納得できるような心境に変化しました。それがブログ立ち上げの一つの契機です。1月17日初稿といたしました。  ブログ開始当初は趣味全般を記述する不定期日記のような体裁でSNSとも連携を模索しました。2011年3月11日の東日本大震災、その7日後に 記して います。”普通に笑い、泣き、楽しむ生活が、大切だと思います。”と。先の経験からこう思えたなら、苦しみもがいた日々は無駄ではありませんでした。5年後の2015-6年にコンセプトを音楽とオーディオへと集約し、ネームとブログ名を変更、サイトデザインもレスポンシブ対応へとリニューアルいたしました。  たとえば、走っているとランナーズハイとは別に身体全体の細胞が喜ぶ感覚を受けることがあります。たとえば、楽器を演奏していると心地よい気分を超えて感極まることがあります。しかしいくら走っても、もはやマラソンで日本記録に並ぶことはありません。いくら楽器を学んでも、もはやショパンコンクールに出場することはできません。趣味の時間とは、日々の生活を彩り豊かにするものだと理解しています。  先日、演奏会で音楽を聴きながらふとあることが心に浮かびました。”この席でモーツァルトを聴きながら静かに息を引き取ったなら幸せだろうな”と。不吉ではなく幸せを感じる心境でした。これは細胞が喜ぶ感覚に近いのでしょうか。彼の論語に”四十にして惑わず”という言葉がありますが、やっと不惑の年代に自分なりの解釈ができたように捉えています。音楽には度々済われてきましたが、今後も趣味として続けることができれば幸せなことです。  しかしこの先、身体が衰えていく現実があります。今よりも

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