神戸市立灘区民センターで行われた「
“悪魔の楽器”バンドネオンד天使の楽器”ヴァイオリン」へ行って参りました。1月末から厳しい寒さが続き、ようやく冬本番という気候ではありますが、例年どおり厳しさもひと段落する頃ですので、今冬は暖冬と言えたのかもしれません。それでも会場近隣には六甲山の麓から凍てつく風が降りて参りました。
会場には開演20分前に到着いたしました。約500人収容のホールには既に2/3以上席が埋っていました。年齢層が高めのなかで若年層やファミリーも多く見受けられ、アットホームな雰囲気。座席は自由席、続けて空席となっていた中央やや左寄りに着座。ホールの左右は14mと広くはありませんが、見上げると高い天井に意識が向かいます。
ステージには中央に小上がりと椅子。それを取り囲むように譜面台と椅子が並び、左奥にグランドピアノが小さく蓋を開け設置されていました。客席の照明が落とされステージが照らされると神戸市室内管弦楽団のメンバーとヴァイオリニストの白井 圭さん、バンドネオン奏者・仁詩さんが登壇します。客席から拍手が起こり、いよいよ開演です。
演目は
・E.モリコーネ:ニュー・シネマ・パラダイス
・N.ロータ:映画「ゴットファーザー」より”愛のテーマ”
・P.マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より”間奏曲”
・A.ピアソラ:バンドネオン協奏曲「アコンカグア」
(休憩)
・W.A.モーツァルト:ピアノソナタ 第11番 イ長調 K.331より第三楽章
・W.A.モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第4番 二長調 K.218
今回は神戸市室内管弦楽団さんの演奏に加え白井さん、仁詩さんの両ソリスト共演が見どころの一つ。またバンドネオンは普段から中島ノブユキさん、三枝伸太郎さんの作品で馴染みがあることと、以前とあるコンサートでその生音に魅了されたことから異なる演奏者で改めて臨む点も聞きどころの一つ。さらにモーツァルトの2タイトルと盛り沢山の内容です。
E.モリコーネ:「ニュー・シネマ・パラダイス」序曲。仁詩さんのバンドネオンと白井さんのヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ピアノ、パーカッション、オーボエという布陣。弦楽四重奏にバンドネオンが主旋律を奏でるアンサンブル。そこに打楽器・木管楽器のアクセント。とくにパーカッションのパフォーマンスは新鮮な印象を受けました。
演奏前に神戸市室内管弦楽団の方と白井さん、仁詩さんによるバンドネオンについての語らいがあり、5kgの重量、アコーディオンとの違い、左右のボタン数と”悪魔の楽器”と言われる所以、鍵盤楽器と思われがちだが管楽器で旋律楽器等々の解説がありました。後に気づいたことですが、吸気のときに蛇腹を肩幅以上に広げる様は一驚。
N.ロータ:映画「ゴットファーザー」より”愛のテーマ”。白井さんが一旦ステージを下りストリングスが増えます。とは言っても小編成ですので、迫力というより孤高にして哀愁あるバンドネオンの音色からストリングスの音のスカートがナチュラルに広がるような一体感を伴う品位ある演奏。
P.マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より”間奏曲”。「ゴットファーザー」つながりの楽曲。仁詩さんがステージを一旦下り、ブラスが加わり神戸市室内管弦楽団のみ20数人余の編成。静謐さと居合わせた空間に抜ける音の余韻を感じる楽曲ですが、前曲同様に雑味のないニュートラルな音色。
A.ピアソラ:バンドネオン協奏曲「アコンカグア」。再び仁詩さんがステージに上がりピアノとマリンバも加わります。第一楽章は叙情的かつエキサイティング。第二楽章はバンドネオンとストリングスの優美な音に誘われて、夢うつつの世界を跨ぎそうになります。”悪魔の楽器”とはこのことではないかという心象が脳裏を過ぎります。
第三楽章は緩急、起伏ある表現に飲み込まれます。情景としては遠い彼方のアコンカグア(山脈)なのでしょうか。やがてうって変わり牧歌的なフレーズに惹き込まれつつ、山並みや街角の場面をイメージをしながらドラスティックな楽曲に耳を傾けます。最後は荘厳な世界観で、なんとも不思議な終わり方。
休憩を挟み、神戸市室内管弦楽団のヴァイオリニスト4人よる「きらきら星」のアンサブル。その後、モーツァルト:ピアノソナタ 第11番 イ長調 K.331より第三楽章。トルコ行進曲の神戸市室内管弦楽団アレンジバージョン。うららかな陽光が差し込み始める初春をイメージするような華やいだ演奏。しかも20人余の編成はモーツァルトの楽曲にはウェルバランス。
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第4番 二長調 K.218。白井さんがステージへ上がります。第一楽章の印象的な導入部から、キレがあり実直な音。響きが少ないホールでのヴァイオリンの音の細部まで質感表現へのこだわりは見事。また神戸市室内管弦楽団の楽友だけあってオケと調和した安定の第4番。客席からは感嘆の一拍があり万雷の拍手へ。
アンコールは白井さんと仁詩さんによるファジル・サイ/トルコ行進曲、ピアソラ/オブリビオンの合奏。ピアソラもモーツァルトも協奏曲では各ソリストのカデンツァを大いに堪能いたしましたが、そこに”悪魔の楽器”と”天使の楽器”の掛け合いは、どちらが悪魔か天使かわからなくなる技巧的かつ叙情的な魅惑の音で、実はそこが本質なのではないかと思い巡らしていました。
プログラムを振り返れば、演奏者の舞台の上がり下がりは比較的多くあったもの、楽曲のつながりやパフォーマンスの良さが伝わり親みだけでなく、プログラムにはない解説実演コーナーには学びという点でもいい機会をいただきました。そんなことを思いつつ演奏会場を後に致しました。
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