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レビュー 立体音響ラボ バーチャル・オーディオ・リアリティの世界

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  株式会社アコースティックフィールド さん主催のACOUSTIC FIELD presents『立体音響ラボ Vol.7』立体音響ワークショップ #7 「バーチャル・オーディオ・リアリティの世界」へ行ってまいりました。 場所は東京・お茶の水駅からすぐのRittor Base。地下1階へ階段を下りていきます。 扉を開けると、薄暗い室内にPCやモニター類。  暗幕カーテンの中に3つの球体、アコースティックフィールド・久保二朗氏とスタッフが機材を調整中。  ヘッドホンを装着しタブレットPCをキーボード操作している模様。NGを前提にカメラを構えると、撮影OKが出ました。複数のアプリケーションが起動しています。  シュアーのヘッドホン。ヘッドバンドにトラッカーが装着されています。  球体はシルバーカラーのスピーカー。ワイヤレス?実はダミー。体験者に方位感覚を示すために設置しているとのこと。  暗幕カーテン内で照明を落とすとダミースピーカーだけが浮き上がってきます。体験者はこのトライアングルの真ん中に立ち、ヘッドホンとリュックサックを背負い立体音響を体験することになります。  ここで一部体験者インタビュー。 イベンター:面白かった。もし暗幕でなかったら、と想像した。 制作者:視覚を奪わないのでいい。雰囲気作りが短い時間でできる。 プログラマー:ヘッドセット使ってない。土砂降りだけど濡れていない。絵がないぶん想像する。映像と組み合わせてもいいが、単純に音だけでもいい。音だけの方が解像度があるようだ。 会社員:音が当たる。面ではなく音が降ってくる感覚。沖縄にいるような不思議な体験。インスタレーションのようなアートで使われることになれば世界観が広がるのではないか。 サウンドデザイナー:素敵。敏感さが素晴らしい。立体感のある雨がいい。映像より音だけの方が広がるのか。 サウンドデザイナー:高さ方向が出ていた。動いているか感覚があった。画面がないことが新鮮。  筆者の感想も重なりますが、冒頭は音の定位音像や質感に聴感が集中しました。やがて、近くに聞こえる音に手を伸ばすが何も無い。音がある方へ歩み振り向くが何も無い。天井から降るモノに包まれているはずが、身体には何も及ぼされていない。不思議な感覚の臨場感と没入感。  さらに、ヘッドマウントディスプレイのない状態は視野に自由さが加わり、立体音

レビュー OpneHomePlayer ーWeb Config UIー

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 UPnP/OpenHome上で稼働するOpenHomePlayerにWeb Config UIが追加されLinn Konfigから詳細設定ができるようになっていました。OpenHomePlayerはオープンソース・フリーウェアのレンダラーソフトで、簡単に言うとPCやラズパイがDSになるという アプリ 。以前、 拙稿 にて機能性等に触れていますのでご参考まで。  Linn KonfigのCONFIGURATION画面にDSやサーバーと並んでOpenHome Media Player(test)が表示されます。MacminiにOpenHomePlayerをインストールしていますので画面ではレンダラーがmac-mini.localと表記されています。  Web Config UIではPCの音声をDSでストリームするSongcast機能やVolumeコントロール, TuneInやTIDAL(日本未展開)などのストリーミングサービスへのログイン設定が可能になり、タブレット画面からDS代わりのMacminiをコントロールしながらミュージック・サービスを利用できるようになりました。  以前のOpenHomePlayerは詳細設定ができませんでしたので、一昔前のDSに一歩近いた感じがしますが、とは言ってもSpaceOptimisationなどのDSP機能は使えません。またテスト版ということもありMacでの稼働はフリーズなどの不安定さが残ります。他のソフトウェアと補完的に使うようなシーンで有効でしょう。  試していませんが、Raspberry Piなどのデバイスではどうなんでしょう。

コラム オーディオスタイル ー再生芸術ー

 「再生芸術」というフレーズに接することがあります。例えば「この音はまさに再生芸術である」とか「再生芸術がこの部屋にはある」などという言い回しですが、些か仰々しいこの定型句のようなフレーズは、その使い方として概ねオーディオ装置への賛美、またはその所有者への褒め言葉に用いられているようです。  では「再生芸術」とは何でしょうか。端的に言えば、ピアニストがバッハ、ハイドン、モーツアルトの書き遺した楽譜をピアノで弾くことと理解しています。つまり、 音楽家なり演奏者が楽器・楽譜を用いて芸術作品の楽曲を再現(再生)する行為 のことだと。ただその言葉について、誰がいつ頃からどのような文脈で言い出したのか、不勉強なのでよくわかりません。  Wikipedia*では「再生」という項において「演奏者が楽器などを演奏することで、芸術作品としての音楽(楽曲)を表現すること。」「受信機において、受信した周波数の信号の一部を増幅回路に再入力(正帰還)して増幅度と選択度を高める電子回路の方式。」と記され、前者は再生芸術、後者は再生回路と一応区分されています。その他の辞典でも意味は概ね重なります。  上述の通り「再生」「芸術」と名詞で分ければ意味がわかります。それが「再生芸術」と名詞と名詞が連なったときにどちらが形容詞として機能するのか若干わかりにくい語句へと変化いたします。あたかもアップルとペンのように。前出の認識に沿えば「(演奏者による楽曲の)再生(行為)という芸術」と前句が形容詞として働くことが自然な文法として成り立ちます。  では「再生芸術がこの部屋にはある」をどう捉えればいいのでしょうか。上述の認識を当てはめれば「音楽家なり演奏者が楽器・楽譜を用いて芸術作品の楽曲を再現(再生)する行為がこの部屋にはある」・・・なんだか回りくどい言い方になってしまいました。それもそのはずで、文脈には「オーディオ装置での再生行為」という暗黙知があるのでそれがなくても違和感のない語句として通ずるものと考え得るわけです。  ですからこの場合「再生芸術」=「オーディオ装置での再生行為」が成文として正しいと言えるのです。いいえ、果たしてそう言えるのでしょうか。「音楽家なり演奏者が楽器・楽譜を用いて芸術作品の楽曲を再現(再生)する行為」が「オーディオ装置での再生行為」と同一視できる位の・・・

レビュー LUXMAN CL-38u

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 遠い記憶を辿れば、木造家屋の板張りの居間の片隅にソニーのブラウン管式カラーテレビとナショナルのラジオ、襖を挟み隣接する床の間のある畳敷きの客間の一辺にビクターのステレオセットが設置されていました。いずれも赤焦茶系のウォールナットやチーク材のウッドキャビネットを纏い、家電があたかも家具と同列に扱われていた時代。  近接し観察する。手を伸ばし触ってみる。凸凹としたメーカーのロゴプレート、カチッと切替音のする金属製のレバー式スイッチと円筒形のツマミ、押せば伸び目地にうっすら埃の入ったサランネット、テレビの起動音とパチパチとする静電気、レコードをかけると左右から等身大を超えた大きな声。これら音響の原体験。  さて機器を正面から眺めると、シンメトリー&アシンメトリーにスイッチ類の均整がとれた配置とヘアライン加工のフェイスパネル。スイッチに手の伸ばし電源を入れると、パイロットランプが橙色に灯火し、円筒形のボリュームツマミ上の目盛りとなる小さなランプが点滅。しばらくするとカチッと音がし点灯に切り替わり再生の準備があっけないほどに整います。  この機器が期待する音になるまでに2年お付き合いしたでしょうか。その間にオーディオラックでの配置や信号線のクロストークにも気を遣いましたが、エージングの歳月を経て設計者の意図したレンジへ広がるべくして至ったということの方がより本質的だったような気がしています。ふと気付いた時には、さすがに安堵の気分に浸ったことを思い返します。  入力2系統、出力2系統をそれぞれ繋げています。お気に入りはフォノとメインイン。どちらも導入前の思惑通りでしたが、フォノはMM, MC high, MC lowに対応し、深淵と広袤を増す滋味あるサウンドを聞かせてくれます。メインインにはアキュフェーズをつなげておりますが、溌剌とした鮮烈明快なサウンドステージの土台に仄かな優艶な彩りを与えてくれています。  古い録音のLPをターンテーブルにセットしゆっくりと針を落としますとややアンバランスな篭った音がする時があります。そういうときにはトーンコントロールノブを回し調節しますとアコースティックな響きを取り戻します。モノ盤の録音はStereo/Mono切替レバーを上下しますと、カートリッジを替えることなくリアルなサウンドを再現いたします。ヘッドシェル固

レビュー GRADO Statement Sonata2

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GRADO STATEMENT SONATA2  Grado Reference/Statementシリーズは共振に強いウッドキャビネットを採用し、その木製エンクロージャーはグラド・ラボラトリーズ製品のアイコンあるいはシンボリックなアイデンティにもなっていますが、数あるフォノピクアップの中で個性的で品格のあるフォルムとルックスに仕上がっています。  グラドのカンチレバーは独自のOTL(Optimized Transmission Line)方式を採用していますが、これはよく撓る継ぎ形状の竹竿のようなものとでも言いましょうか、フラックスブリッジと合間って高効率でスムーズで高いトレース能力を実現しているものと考えます。リストには各3, 4, 5ピースモデルがグレードで分かれています。 Shelby Lynne / You Don't Have To Say You Love Me  Gold1とはスタイラスチップの素材が異なりますが4ピースOTLで比較しやすいSonataでのレビューとなります。当初はウッドキャビネットによる音質向上は半信半疑でしたが、すぐにその疑いは晴れます。Gold1の延長線上にある抜けのいい明るくしなやかなサウンド。そこに静けさ、そして深みが加わります。レゾナンス低減とトレース能力のさらなる向上。グラドのグレード分けは功を奏しています。  いくつかのピックアップを使ってみて、どうやらGradoのサウンドが感覚に合っていると感じました。それはじっくり聴き込むと言うよりは、針を落とした直後の最初の音とはやや言い過ぎかもしれませんが、そのくらい直感的に耳に馴染み、心地よさを脳または体が覚えると表現できるほどのことです。  Statementの方は低出力とはいえインピーダンスが47kΩありますので、システムによりMMポジションでの再生となるでしょう。またハウリングにやや影響されやすい面があるのでトーンアームやフォノイコライザー(とくに真空管)との相性、ルームアコースティックに依存するかもしれません。しかし条件が合えばMC/MMに迷うことなくこれ一つで十分と言えるピックアップです。

レビュー LUXMAN MQ-88u

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 霜月に入り外気温が一段と低くなってまいりました。外出時には薄手の羽織の中にニットを重ね着しなければ身震い致します。これからのひと月は近傍の山々がゆるやかに緑から黄、橙、赤、茶と変化していき、冬の装いを纏う期間です。  硝子一つ隔てた室内にも窓の隙間から冷えた空気が入ってまいりますと灯火の温もりを恋しく思い、3ヶ月余り休ませていた音響機器のご機嫌を伺う頃合いです。アンプのボンネットを開き、薄っすら重なる埃を払い、真空管のゲッタを確認し、ケーブルを丁寧に端子類へつなげていきます。  わずか3ヶ月ばかり前のこととは言え、久しぶりの灯火は毎シーズン心踊る小さなイベントです。夏場に何度か灯火したことがありましたが、5極管4本の3極接続の熱量はさほど大きくは無いにせよ、蝉の鳴く頃に冷房と扇風機を回しながら灯火することにあまり気分が乗りませんでした。だったら3ヶ月待つことにしようかと。  機器のスイッチに手を伸ばし、カチッとしたスイッチ音とともに真空管の脚下に橙の色がぽっとやさしく点ります。初段管、増幅管、出力管への灯火を順に確認していくと全ての管に灯が点りフィラメントがふわっと色づき始めます。そして覗き込んだ顔に僅かに灯火の暖を感じ始めます。  思えばこの機器も製造から今年で5回目の冬を迎えることになりました。昨年は初めて鑑賞中にスピーカーからポツポツと音がいたしました。そこで真空管を確認すると出力管の一つのピンに曇りがあったため乾いた布巾でぬぐいました。再び球を差し戻すと異音は全く無くなりました。また付言するとハム音とも無縁です。  この機器は寝起きは早いのですが、本領を発揮するには相応の暖機運転が必要となります。その間、フレッシュで明るくきめ細やかな中高域、しなやかに伸び弾む低域、多彩な色どりの音調、上下左右に申し分ないサウンドステージはあたかもA級増幅のそれを楽しむが如く音楽と時間に浸りつつ、あとはそのゆるやかな変化量を視覚に委ね過ごします。  やがてLP盤を2-3枚聴き終えた頃、あたかも坩堝から出された硝子細工が外気に触れ透明色と鮮やかな橙色を発色したかのような、艶やかで透き通る優美な余韻を微かに付与されつつ凛然とした音を奏で始めます。この微かな音の窯変、いや妖変を聴くがために秋(とき)をじっと待つ歓び、そのアナローグなうつろいを愛

コラム ハイレゾはなぜ普及しないのか?

 ハイレゾ音源を購入するとき、多くは国内外のダウンロード販売を利用します。それはフィジカルメディアより簡単に入手できるからという、とてもシンプルな理由です。その裏返しにハイレゾをパッケージしたフィジカルメディアが国内マーケットに広がらないという現実があります。  フィジカルメディアが全く無いのかと言えばそうではなく、Blu-ray Audioはスペック上はハイレゾメディアですが、再生機器に著作権上の制限があることと制作サイドの意向もあり、なかなか一般化しないというのが実情です。現に店頭に並ぶBlu-ray Audioのアルバムタイトルは極めて少数です。  また日本ではハイレゾ配信より先に携帯音楽配信やiTunes Storeが一般化していましたので、高音質なハイレゾを聴く興味・目的よりMP3, AACといった不可逆圧縮音源を簡単に安価で携帯にダウンロードできる利便性の方が優先される環境にあったとことも国内特有の状況なのかもしれません。  一般社団法人 日本レコード協会が1986年より実施している「 音楽メディアユーザー実態調査報告書 2015年度版 」によると、ハイレゾ配信の認知度は50%。しかしよく見るとサービスの内容や価格等について知っていると答えた方は9.3%しかまいません。またハイレゾ配信の関心度、ハイレゾ配信の利用意向に至っては更に数字が減り、逆にあまり利用したいと思わない、全く利用したいと思わないという方が全体の80%にのぼります。  また主な音楽聴取手段としてYouTube、次いでCD(リッピング含む)、ダウンロード型有料音楽配信は10%に過ぎません。これは上記の認知度を裏付けるものです。比較対象として米・RIAAが公開しているレポート「 2015 U.S. Consumer Music Profile | MusicWatch Inc. 」によると、CD, Digital, Streamsなどソース別にほぼ40-50%代で分散化しています。これらは同一の統計調査ではありませんので正確な分析はできませんが、日米の傾向が大まかながら伺える数字です。  これは1年前の数字ですが結構ショッキングな数字です。YouTubeはご存知のない方がいるかもしれませんが、多くのコンテンツの音声がCDスペック以下のAAC、HDでもAAC-LCコーデッ

コラム 音楽メディアとフォーマット・MQA Part5

 MQAについて今回は否定的な立場の意見を取り挙げます。Schiit Audio社が「 WHY WE WON'T BE SUPPORTING MQA (なぜ我が社はMQA対応しないのか)」という題名の見解を自社ウェブサイトに掲載しています。またその内容はDarkoaudioにてJohn H. Darko氏により「 Schiitting on MQA 」として取り挙げられています。一番印象的なのはライセンス・フィーの行で、MQA対応はレコード産業を外部組織に移譲することを意味するのではないかというような危機感を表しています。  Bechmark社は自社ウェブサイトに「 IS MQA DOA? (MQAは生き残れるか?)」という題名で技術解説と自社の見解を表明しています。冒頭のセンテンスが論旨を表していますがHDCD, DVD-AそしてDSDと同じように一過性のものになるのかと見解を示しています。実はSchiit Audioも同様にMQAの先行きをSONYがプロモートしながらいまだに録音が少ないDSDと重ね合わせています。  ストリーミングやダウンロードなどのレコード産業にメリットなのかデメリットなのかという論点は、 前回の投稿 で言及したStereophile誌面での考察と相対する意見でもあり、あるいはオープンソース・オープンフォーマットが最適という他の意見もあり、ここはいまだに議論の余地が残っているものという思いがあり、今回取り挙げました。  ストリーミングといえばTIDALのMQA対応の動向ですが、公式Q&Aにはファームウェアアップデートはまだランチしていないものの、もし利用できるようになればアナウンスすると示唆しています。その点が逆にTIDALの動向が定まっていないとする論拠にもなっているところでもありますが、TIDALのCDクオリティ音質のサービスを評価する声は多く、正式アナウンスを待つという状況はどの業界も同じなのではないでしょうか。  話は戻りますが、Benchmark社の解説にCOMPATIBILITY ISSUES(互換性の課題)というセンテンスがあり、他のDACメーカーに見受けられる主張と重なるものがあります。MQAはデコーダーとDACをセットとしデバイスとしてのクオリティを最適化しているということですが、DACメ

コラム オーディオスタイル ー音は人なりー

 「音は人なり」という言葉に接することがあります。メディアやコラムで目にすることがありますし、会話中に聞かれることもあります。そのフレーズは肯定的な評価として用いられることが多いようですが、反面、含みをもたせた否定的メタファーとして使われることもあるようです。そのフレーズを使う方の意味・解釈がそれぞれの立場であるようですが、その出典については必ずしも明らかではありません。  おそらく「文は人なり」を借用・転用したものと推察できますが、それでは「文は人なり」とは何でしょうか。元はフランスの博物学者、ジョージ・ルイ・ビュフォンが1753年にアカデミー・フランセーズに誘われた際に演説した以下のフレーズ*にあるようです。 「Writing well consists of thinking, feeling and expressing well, of clarity of mind, soul and taste... The style is the man himself.」*  意訳すると「上手く書くことは思考から成ります。感じて上手く表現することは精神や趣きといった明白な心から成ります・・・文体とは書き手自身なのです。」という感じでしょうか。その中の”The style is the man himself”だけが「文は人なり」と要約・翻訳され広まったと推測されます。  もちろん「文は人なり」はよくできた要約ですが、前段の思考と心、言い換えれば思考と感情、それが文体=行動に結びゆくならば、前段も大事な一節一節だと思います。前段があるが故に後段が存在するにも関わらず後段だけ知ったところで、全て理解したと言えるのでしょうか。  ただ理解したつもりでいるだけなのではないでしょうか。もちろん人>行動>思考>感情と逆に理解を深められる方は別ですし、あるいは文体が全てとストイックに捉える方もいるのかもしれません。それらの性質は往々にして経験則や職業家意識に依るところでもあります。  そのフレーズをオーディオにプロットしてみると、さしずめ「The sound is the man himself」でしょうけど、再生音(=文体)の傾向や良し悪しで市井の人の人格をも評価することに対して、あなたに何がわかるんだと思ってしまいます。むしろその音に至る思考や

レビュー Meridian Explorer2 - MQA

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 Meridian Explorer2は海外製ブランドのアクセサリーのような品のいい小箱に入っていました。小さな筐体です。昨今はスティックタイプのDACがあり、とりわけ小型とは言えませんが、必要最小限のファクションとアルミを纏ったミニマルなデザインはApple製品などとよくマッチします。機能詳細は メーカーHP をご参照ください。  Meridian Explorer2の音質について、比較するのは同じTI社のDACチップを使ったアキュフェーズのDAC-40。レンジや解像度は価格帯が比較的近いので大きな差はないものの、物量とアンプとの接点の違いもありDAC-40の方が音質的にやや分があります。しかしどちらも自然な音調でExplorer2はキメが細かくDAC-40はシャープな音像、それが各DACのキャラクターという認識です。これが視聴の前提です。  Equipment  Storage: Macmini, Macbook Pro  Software Player: Audirvana Plus 2 (A+)  Hardware Decorder: Meridian Explorer2  Hardware DAC: Accuphase DAC-40  Amplifier: Accuphase E-360  Speaker: ProAc STUDIO100  Headphone: AKG K240MK2  Cable: AudioTechnica AT561A  A+の設定はInteger(Hog) mode, Core Audio, No UpSampling, No Dither  Mac環境なのでMQA-FLACの再生にはAudirvana Plusを使いましたが、他にもVox, BitperfectでもExplorer2のデコーダが機能します。  1. スピーカー再生:Macmini, A+, Explorer2, E-360, STUDIO100  2. スピーカー再生:Macmini, A+,  DAC-40, E-360, STUDIO100  3. ヘッドホン再生:Macbook Pro, A+, Explorer2, K240MK2  Source: 2L Test Bench

コラム コンサートチケットのリセールについて

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 コンサートチケットをキャンセルしたいとき、ありませんか?  昨年はコンサートへ出向く機会に恵まれました。と言っても5, 6回ですので多いほうではありません。その全てのチケットは3ヶ月から半年前に予約購入したもので、幸い全日程の予定調整できました。が、今年はそうではありません。  すでに3回ほどチケットを無駄にしてしまいました。是非行きたいと買ったチケット、しかも人気アーティストのコンサート、そして比較的良いいシートだっただけに行けなかったことが何より残念でしたが、行かなかったことで空席を作ってしまったことに遺憾の念ような感情を抱きました。  そのときにこう思うんです。誰かにお譲りしたい。  そして友人知人の伝手を探しますが、そういう時に限って縁がない。尤も行くことを前提にチケット購入したわけですから、行けなくなったときのことまでは考えてはいません。ギリギリの日程調整に他人の予定が合致したときの方がラッキーなのかもしれません。  さあ困った。売るに売れないチケット。どうしよう!?縁がなかったとして諦めるしかない。諦めよう。こんな顛末が今年すでに3回あり、行けなかったチケットを敢えて保管し、自身の行動を戒めつつ下半期は観覧参加を自制しています。  というところで、ホテル予約の権利売買できるWebサービスの プレビュー版 が始まることを知りました。その名も「 Cancell 」。詳細はウェブサイトに記述されていますが、サービスが名義変更を代行しその手数料を徴収するということのようです。 このサービスを知ったとき、コンサートチケットにも利用できないものかと思いました。   アーティスト団体がチケットの高額転売反対の アピール とともにオフィシャル再販 (リセール)サービス導入の取組みの姿勢を示すなか、 大手チケット販売 が既にリセールサービスを導入していますが、条件付きなのでやや融通に欠けます。ただこういうサービス・プラットフォームが拡大していけば、やむを得ずキャンセルしたい方とチケットを買いたい方のマッチングをフェアトレードで可能にするだけに期待しています。

レビュー ソフトウェアプレーヤー比較 ー iTunes & OpenHomePlayer ー

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 PCオーディオとネットワークオーディオにそれぞれ最適化したソフトウェアプレーヤーの機能性・音質を比較しました。PCオーディオ系はスタンダードなiTunes。ネットワークオーディオ系はオープンソースの OpenHomePlayer 。どちらもフリーウェアで各OS版が用意されています。(OpenHomeとはUPnPベースのオープンソース・プロトコルで機能性の拡張が特徴です)  比較環境 ・ハードウェア:Macmini, E-360 with DAC-40, Studio100 ・ソフトウェア:OS X El Capitan, iTunes, OpenHomePlayer ・サーバーソフト:iTunes ・コントロールポイント:iTunes Remote, Linn Kazoo ・音源: 2L Test Bench - Carl Nielsen: Chaconne Piano Music op 32 - Christian Eggen (16bit/44.1kHz)  KazooはiTunesをサーバーとして認識しますので、iTunesを共通のライブラリとして比較できます。したがって対になるソフトウェアプレーヤーとコントロールアプリ以外は同一環境です。オーディオ出力は音源スペック16bit/44.1kHz固定でDACに送ります。  機能性  OpenHomePlayerはMacのメニューバーに常駐します。アプリ機能はPlay, Pause, Stopのみのシンプルなものですが、Kazoo側でシーク&スキップができますのでプレーヤー&サーバー選択、アルバム・トラック選択、再生・一時停止・シーク・スキップ・停止といったスペックは満たしています。ただシーク時の反応がもたつきます。  iTunesの方は言わずもがなですが、上記の機能は全て満たす機能性・安定性です。敢えて言えば、Remoteの反応が比較するとやや遅く感じます。Remoteのメジャーアップデートは記憶にないので、そろそろAppleもiTunes+Remoteのインターフェースを改良してほしいものです。  音質  OpenHomePlayerはいわゆる高音質と謳われる高機能ミュージックプレーヤーのような繊細な音まで聴こえるレベルで、排他モードの

コラム ハイレゾ時代のフィジカルメディアの展望 -CD, SACD, Blu-ray Audio, MQA-

 昨今オーディオコンテンツを入手するには3つのサービスがあります。  ・Apple Music, Spotify, TIDALなどのストリーミング・サービス  ・2L, HD Tracks, e-onkyoなどのダウンロード・サービス  ・CD, SACD, Blu-ray, Vinylなどのフィジカルメディア・サービス  レコード以外はすべてデジタルデータの時代になりました。   スペック底上げの可能性  この中でも一番ホットなサービスがストリーミングです。なかでもTIDALはCDと同じロスレスサイズのビットレートを保証し、さらに最新のMQA配信対応を準備し、いよいよハイレゾ・ストリミーミング再生の時代に入ります。つまり上に挙げた3つのサービス全てがハイレゾ時代に入ったと言えますので、MQAの出現とTIDALとのセッションはストリーミング音質の底上げに留まらず各サービス分野へインパクトのあるものになる可能性があります。   フィジカルメディアの主力は?  今後ストリーミングがシェアを伸ばすと考えられていますので、おそらくストリーミングで楽曲を聴く、またはストリーミングで聴いてからダウンロードコンテンツもしくはフィジカルメディアを購入するという、ラジオ時代から続く古くて新しいスタイルが主流化するでしょうから、ストリーミングのビットレートより低スペックのダウンロード、フィジカルメディアは敬遠、淘汰され得る可能性があります。そこでダウンロードの音源スペック、フィジカルメディアはどのメディアがメインとなるのか?という論点に意識が向きます。  欧米ではBlu-ray Audioのシェアが数年前から伸びているということです。Blu-ray AudioはBlue-spec CDとは異なり、24/192のハイレゾコンテンツをパッケージできます。ブルーレイプレーヤーやユニバーサルプレーヤーでCDのように音声だけを再生でき、また24/96や16/44.1のコンテンツをパッケージしていることからPCにコピーできる、いわばフィジカルメディアとダウンロードのユニットのようなものです。日本でもこのBlu-ray Audioをフィジカルメディアのメインへと推す声があります。  ただこれには潜在的な問題があります。音源の多くがアナログマスターまたは

Where Or When / New York Trio [music review]

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 暦ではそろそろ立秋。なんとも涼しげな言葉の響きですが、屋外は30度を超える灼熱の気候。一年で一番暑い時期、冷房との温度差や体力の消耗でそろそろ夏の疲れが出てくる頃ではないでしょうか。お気に入りの音楽を聴きながらゆったりと過ごし身も心も癒したいものです。  近頃ストリーミングサービスの売上が増加傾向だそうです。経営的な問題は依然として残っているものの、一定数の固定客がつくことで数字が上がっているのこと。そのサービスシーンでは楽曲を聴いてからフィジカルメディアを購入するスタイルがあるそうで、遠い昔にアメリカンTOP40やBBC全英シングルチャートをラジオで聴いてレコード店に走った自らの記憶と重なりました。 New York Trio [Where Or When]  ニューヨークトリオによる2007年発売のアルバム「THOU SWELL(邦題:君はすてき)」の中の1トラック。ご存知、Richard Rogersの名曲「Where or When(いつか何処かで)」のカバー。ビル・チャーラップ率いるNEW YORK TRIOにかかればジャズのスタンダードナンバーもモダン&スムーズに。彼らの脱構築的な姿勢というかアレンジャーとしての才能には脱帽です。    New York Trioは「 過ぎし夏の思い出 」というアルバム作品があり、こちらのトラックの方が夏向きの印象ですが「絵になる一枚」ということでは”Where or When”を含む当アルバムのモダンでエレガントなモノトーンの抽象絵画に通ずる美しいジャケット作品をセレクトしてみました。ちなみにこのアルバムはSwingJournal選定ゴールドディスクです。 Eddie Higginsのアルバム もそうですが Venus Records レーベルはジャケットの造り込みが素晴らしいです。  今夏の「絵なる一枚」をコンセプトにしたミュージック・レビューはこれでおしまいです。ご精読ありがとうございました。

Spin Around / Sliding Hammers [music review]

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 レコードはジャケットのアートワークを表向きに陳列販売されています。CDのように縦置きだとアルバムタイトルが見えない物理的な形状がその理由です。しかし一時期CDがアートワーク面を表向きに陳列販売されてました。CD販売の初期、海外製CDアルバムの紙パッケージがレコードジャケットの縦サイズと同寸法でした。レコード陳列什器をCD什器へと転用する過渡期のエピソードです。  CD時代に入り新譜やおすすめアルバムのアートワークが表向きにディスプレイされるようになりました。今回ご紹介するトラックのアルバムジャケットは当時CD店のディスプレイで目に留まり思わず手を伸ばしたもの。「絵になる一枚」です。 Sliding Hammers [Spin Around]  スライディング・ハマーの2005年発売のアルバム「Spin Around」と同名のトラック。トロンボーン奏者の姉妹という異色の肩書き。そのイメージから触手が伸びるか分かれるところだと思いますが、見事にその先入観をいい意味で裏切るジャズアルバムです。黒いドレスを着た素足のバレリーナが踊るイメージがアルバムタイトル「Spin Around」と見事にマッチした美しいジャケットです。  Spin Aroundはボサノバテイストのエレガントなジャズヴォーカルトラック。ドラムとベースのリズムに小気味良いピアノ伴奏、そこにスムーズなヴォーカルが乗り、そしてトロンボーンがデュオで間奏に入ります。ヴォーカルとホーンの自在な プレイスタイル はトランペットとチェット・ベイカーを彷彿とさせます。チェットとそれのようにトロンボーンと彼女たちの声質と周波数が似ているのかもしれません。

Arabesque No.1 in E Major (Andantino con moto) / Nino Gvetadze [music review]

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 暑中お見舞い申し上げます。  蝉のオーケストラで目覚める夏の朝。此方の地域は朝晩少し気温が下がるので部屋の窓を開け放ち風を入れ、涼を感じながら週末の一日を過ごしています。今年は猛暑になる予想ですので、皆さまくれぐれもお身体ご自愛ください。  レコード販売数が伸びていることはご存知の通り。若い世代にはフィジカルメディアとしてのレコード再生が新鮮で、音に温もりが感じられ、ジャケットがインテリアとして活用できることがその理由とのこと。ダウンロード・ストリミーングの時代ですが「ジャケ買い」が世代を超えて健在のようです。今回はその「絵になる一枚」を持つトラックをご紹介します。 Nino Gvetadze [Arabesque No.1 in E Major (Andantino con moto)]  ピアニスト・ニーノ・グヴェタッゼによる2014年発売のアルバム「DEBUSSY」の冒頭の1トラック。ドビュッシーの代表曲の一つ アラベスク 第1番 です。ドレスを着た裸足の女性とグランドピアノ、そして背景の壁面装飾。それら構図と色彩が美しい、まるで印象派の絵画のようなアルバムジャケットに心打たれます。     ドビュッシーの楽曲は印象派の音楽家たちが表現したように絵画をイメージさせます。そのアラベスクを表現するニーノのタッチはソフトで繊細、そしてエレガント。それはあたかもアルバムジャケットの中の彼女がスタンウェイのピアノの音色とともに今にも踊り出しアラベスクをポーズする姿にも見えてくる、なんとも可憐で涼しげです。  このアルバムを制作するにあたりニーノは何か役立つことをしたかったそうです。そこで若い世代や子供達へのクラシック音楽教育のためにピアノの音色を聴きながら絵を描いてもらうワークショップ「DEBUSSY IN PICTURES」を行ったそうです。 その模様は レーベルサイト と オフィシャルYoutubeチャンネル でご覧になることができます。

コラム ハイレゾの客観評価研究について

 先頃、ロンドン大学クイーン・メアリーが「人間はハイレゾを聴き分けられる」という研究結果を 発表 しました。そのトピックが音楽系 メディア で取り上げられています。論文はAES(Audio Engineering Society)のサイトよりPDFファイルをオープンアクセス・ダウンロードフリーで入手することができます。( Research Finds Audible Differences with High-Resolution Audio )(Reiss, Joshua D.  A Meta-Analysis of High Resolution AudioPerceptual Evaluation  Queen Mary University of London, London, UK)  概要は「ハイレゾと16bit/44.1kHz or 48kHzの違いを知覚する能力評価について組織的にメタ分析を行い、18の研究機関で480人の被験者を対象に延べ12,500回の試験からデータを得て、聴き分けのトレーニングを受けたリスナーの約60%がハイレゾの区別をより認識できた」とのこと。研究機関にはロンドン大学以外も含まれ、それらが過去十数年に渡り調べた研究データを取りまとめたということのようです。  結論としては非ハイレゾとハイレゾには差異があるということですので、特に音楽産業のビジネス展開において経営判断を行う上でこの研究結果が有用なデータになるかと思っています。 ・  その論文の研究群の中に興味深いものがありました。それはPCMとDSDに関する聴覚認識の比較研究論文で2つの機関が別に研究したものです。  一つがDVD-AUDIOとSACDについての比較研究(D. Blech and M. Yang、 DVD-Audio versus SACD: Perceptual Discrimination of Digital Audio Coding Formats   presented at the 116th Convention of the Audio Engineering Society  (2004 May), convention paper 6086.)  もう一つがPCMとDSDについての比較研究(A. Marui,

コラム デジタルソリューション考・Part6 Roon・RAATとエクスペリエンス

 昨年頃からroonが メディア で取り挙げられる機会が増えてきました。 roon はRoon Labs社のミュージック&メディア・ソリューション・サービス。その原型はMQAフォーマットで今話題のMeridian Audio社のネットワーク・オーディオ・システム Sooloos 。roonはその開発部門からソフトウェアセクションがスピンアウトした企業の製品のようです。  roonのウェブサイトを一読し、早速用意されているTrialサービスを利用してみました。roon、roon server、roon remote、roon bridgeと順に、いわゆるプレーヤー、サーバー、コントローラー、レンダラー機能を有するアプリケーションを各デバイスにインストールすると、メディアサーバーに保存している音源のアルバムアートがiPadのroon remote画面にすばやく美しく表示されました。  続いて入出力デバイスの設定を行いプレイリストに曲を並べ再生すると、USB-DACを通じてスピーカーから音が出てきました。この間の一連のアクションはPC・ネットワークオーディオのフローと同じです。ただしroonはUIの視覚的、制御的な優位性がファーストタッチで実感でき、さらに楽曲等の付随情報にあたかも情報のページをめくるが如くアクセスできる機能も比較優位性を覚えました。そこでもう一度roonのウェブサイトを覗くと、目に付いたフレーズがありました・・・「 experiene 」 ・  Experience 【エクスペリエンス=経験】エクスペリエンスとは、狭義のUX・ユーザーエクスペリエンス(デザイン)、広義のCX・カスタマーエクスペリエンスのことで、顧客経験価値または 全体最適 と称されるマーケティング用語です。これは顧客が企業の製品・サービスで感動を経験し、企業がその関係を持続し続けるためのサービスマネージメントというような概念です。  従来はCS・カスタマーサティスファクション、CRMを採用するマーケティング手法が一般的でしたが、顧客とサービスの関係を感情・感覚で捉えると関心<満足<感動とスケールが右に行くほど重要であり、より顧客理解を進めるためにCSからCXへという流れが昨今のマーケティングにはあります。事例を挙げればAmazon、Appleは古参で

コラム 音楽メディアとフォーマット・MQA Part4

 MQAフォーマットに関しての投稿が続きます。John Atkinson氏がStreophile誌上で「Inside MQA」と題するフォーマット解説を行っています。( Inside MQA | Stereophile.com)  技術解説がメイントピックスですが、前段に興味深い一節がありました。As well asから始まるセンテンスで、MQAはストリーミング配信の音質向上とは別にレコード業界に他のベネフットがあるということを彼は主張しています。それはMQAがFLACのようなロスレス・パッキング・スキームとは異なるという点だと述べています。  そのベネフィットとは、MQAによってレコード会社は著作権上の問題を絡む、ハイレゾマスターの複製をもはや販売することはなくなり、その代わりにマスターと同等に聞こえるであろう、いずれかの商品を販売し、マスターを複製することはできなくなるだろうということのようです。  昨今のフォーマット論はオーディオ業界主導のマーケティング戦略の一環という側面が大きく、製作側の視点に立ったものなのか疑問を感じる、偏った評論や広告が巷に溢れ、そもそもハイレゾマスターのリリースに消極的、否定的なアーティスト側も、オーディオ業界隈に限定した話としてオーディオファイルほどの関心を抱くことはなかったのではないでしょうか。  さてここへ来て、MQAのリリースが誘発し、いよいよフォーマット論の核心の論点に入ったという感を持ちます。それはフォーマット論を語る上で欠かせない、製作側のベネフィットという視点です。それはとりもなおさず、MQAがリスナー、アーティスト、技術者そしてレーベルというステークホルダーにメリットがあるデジタルメディア・音楽メディアとして成立するのか?という、今最も必要とされている論点でもあります。  この点は 前回の投稿 で言及したマーケティングの事情という一節と重なり、元をただせば、当ブログのコラム「 音楽メディアとフォーマット 」でデジタルメディア時代の課題設定とした掲げた音楽産業界のベネフィットとコストというテーマに立ち返るもので、単にフォーマット論という枠を超えた議論に広がる可能性が見えてきました。  ちなみにそのMQAですが、米RIAAがMPEG 4 AUDIO SLSと並びハイレゾとして認定することをア

コラム 音楽メディアとフォーマット・MQA Part3

 Meridian Audio社のBob Stuart氏がComputer Audiophile誌上でMQAフォーマットへの質疑応答をいたしました。( A Comprehensive Q&A With MQA's Bob Stuart )MQAに関して、巷の期待感や懐疑的意見に対し技術論を含めQ&A形式で概ね網羅的に説明しており、興味深く記事を読み進めました。その中で幾つかの気になった点を挙げてみました。  MQAはレッドブック(CD規格)に準拠し、MQA CDのリリースは可能なのか?との問いには、MQAはPCMなので、CDやBlu-rayなどの光学ディスクにファイルを収めたり、トランスポート出力することができるとしています。(Q38-A38)また現時点ではend-to-end(エンコード&デコード)のサービスではありますが、file-to-fileのコンバージョンも技術的には可能であると言及しています。(Q39-A39)  リッピング可能か?またはDRMを採用するのか?との問いには、MQAはLPCMでありレッドブックCDと互換性があるし、DVDやBlu-rayにも格納できます。(Q8-A9) DRMはアクセス制限またはコピープロテクションですが、MQAはこれらのいずれも行いません。(Q79-A79)  MQAのデコードにはハードウェアとソフトウェアの両方が必要か?との問いには、様々なプラットフォーム上でデコード可能であり、ハードウェアは必要ありません。Windows、OSX、Linux、Android、iOS、XMOSその他カスタム・プラットフォーム用にライセンスを提供しますとのこと。ただしハードウェア・デコードの方が音質は有利です。(Q42-A42)FPGAでMQAデコーダーを実装することも可能です。(Q-45-A45)  2LのNielsenの楽曲のMQAファイルサイズが大きいのはなぜか?との問いには、これは注釈としてMQA陰謀説のトピックスになっているという記述がありますが、MQAファイルは24bitにリマスターしたもので、したがってオリジナルと比べファイルサイズが大きく異なっていると釈明しています。(Q40-A40)   MQAの13bitがLossless(可逆)で14bit以下はLossy(不可逆)なので

コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part6

 Mojo Audio社のBenjamin Zwickel氏が「 DSD vs. PCM: Myth vs. Truth 」(DSD 対 PCM: 神話 対 真実)と題した論説を2015年8月に自社のブログに投稿しています。Mojo Audio社も稀有なマルチビットNOS-DACメーカーの一つだと言われており、彼らのDSDへの考察をご紹介致します。  尚、引用先の本文中にはGrimm Audio社のホワイトペーパーで用いられたフォーマット変換フローチャートや図解と同じものが使われています。   序論 Direct Stream Digital (DSD) は、ハイエンドオーディオの大きな動きとなってます。超高サンプリング周波数とともに、エンコーディングとデコーディングを簡素化し、比類のないパフォーマンスを約束します。これら私たちが待ち望んでいたことなのでしょうか?それとも単に誇大広告なのでしょうか?このブログは技術的な事実から誇大広告を離し、DSDの利点を説明し、Pulse Code Modulator (PCM)がどのように優れているのかを説明します。  簡素な歴史 (一部省略)  「1980年代初期のデジタル録音は低解像度で生産されました。1990年代初頭、ソニーはアナログマスターをアーカイブする安価なメディアの必要性を検討し1995年、アナログからデジタルへ直接変換する1bit 2.8MHz DACチップを開発しました。」  「その後、ソニーはフィリップスとSACDを開発しましたが、市場はすでに5bit/128fsへ到達していました。これらは非常に高価なR-2RマルチビットDACの代替として市場に投入されました。ビットストリームDACのアルゴリズムはPCM入力をDSDヘ変換します。結果、再現性を犠牲しにコストを優先させたわけです。」  「R-2RマルチビットDACは製造コストが膨大であることだけでなく、より洗練された電源供給を要求しますので、ビットストリームDACの倍の費用がかかり、確かに一般消費者が探しているものではありませんでした。」   DSD vs PCM Technology 「PCM録音は16 or 24/44.1kHz-192kHzで市販されています。最も一般的な形式は16/44.1

コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part5

 Grimm Audio社が DSD Myth White Paper (DSD神話)という題名のホワイトペーパーを2014年末に発表しています。彼らはDSD128/258フォーマットの盛り上がりの中に混乱があるとして、背景にはAD/DA変換への知識欠如があり、ホワイトペーパーを記すに至ったとしています。  Grimm Audio社は純粋なディスクリート1bit ADコンバータを製品化している稀有な企業だと言われています。ホワイトペーパーの内容は2014年末当時のものですが、現下のDSDマーケットの現状の問題点を明示的に指摘し、フォーマット論争について示唆に富む内容を含んでいます。あるいは、これまでに引用してきたフォーマット論の幾つかの内容と重なります。  尚、引用先の本文中にはPCM及びDSDのAD-DAフローチャートや図解がわかりやすく示されています。   DSDはベストなフォーマットなのか?  「DSDが注目されています。確かにコンセプトは魅力的で、高サンプリングのシンプルな1bitはアナログに近い信号を生成します。ではDSDはベストなフォーマットなのでしょうか?答えはイエスでありノーでもあります。残念ながら簡単には答えられません。」  「フォーマットを論じるだけでは全体の問題が見えてきません。本当の1bit AD-DAコンバータを使ったDSDは素晴らしいですが、多くのSACDプレーヤー、DoP DACは1bitDACチップを使用せず、SACDレコーディングやDSDダウンロードの大部分がピュアではありません。ネイティブDSDと謳いながら5bitでADコンバートし、24bitで編集し、最後に1bitでDSDマスタリングをしています。この変換プロセス自体がロスレスではないし、PCMで良い録音をしたならば、欠陥のあるDSDよりPCMの方がいいです。」   PCMからDSDへ移行する経緯 「デジタル音楽はPCM(Pulse Code Modulation)を基礎としており、ビット数はノイズフロアを決定し、ビット数が上がる毎に(ノイズフロアは)おおよそ6dBずつ少なくなります。適切なディザリングは切り捨て歪みを回避できます。」  「1983年 フィリップスが14bitオーバーサンプリングCDプレーヤーを開発し、ノイズフロアを

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