Mytekのファームウェアアップデート(2018/10/11 v1.23)によりMQAによるカスタムFIR係数の調整がありました。音響機器においてはファームウェアアップデートにより機能性能だけでなく音質が向上することもあります。今回はファームウェアアップデート後のリスニング体験で感じたことを含め、再度のリスニングテストを通して雑感などをご紹介したします。
テスト環境:
Storage: Macmini
Software Player: Audirvana Plus 3
DAC: Mytek Brooklyn DAC+
ADC: Apogee Element24
Analyze: MacbookPro, MusicScope
Amplifier: Accuphase E-360
Speakers: Brodmann F2
Headphone: AKG K240MK2
Cable: AudioTechnica AT561A, Mogami 2497
Mytek Firmware v1.24
Audirvana Plusの主要設定:
MQA Decoder Device
DSD over PCM standard1.1
Exclusive access mode
Use CoreAudio I/O buffer
Integer mode
Sample Rate Converter: Apple CoreAudio
テスト内容:スピーカーによるリスニング、テスト音源は2L
Test Benchから。
- MAGNIFICAT - 4 Nidarosdomens jentekor & TrondheimSolistene
- Quiet Winter Night -6 Blagutten - Hoff Ensemble
MAGNIFICAT -4 は
Part1 リスニング編でも使用したものです。Quiet Winter Night -6 Blaguttenはピアノ、エレキギター、ウッドベース、トランペットとパーカッションによる構成の静かですがほんのり熱を帯びたジャズセッション。収録は小さな教会で行われ、アコースティック楽器とエレキトリックギターのアンプを通した音、そして響きや余韻を含め幻想的で美しい楽曲です。
今回も16bit/44.1kHz, 24bit/96kHz, 24bit/192kHz, 24bit/352.8kHz, DSD64, DSD128, DSD256, MQA(24bit/352.8kHz)データを用います。PCMとMQAはFLAC、DSDはDSF形式です。DSD再生はDoPでDSD128まで、DSD256はPCM変換したものを視聴します。2のBlaguttenはDSD128までのテスト音源が用意されていますので、DSD128までのテストといたします。
リスニング
MAGNIFICAT -4
16bit/44.1kHzから順にスピーカー再生します(*1)。24bit/96kHzでは精細感が出ます。パースペクティブが上下左右に少し広がります。比較すると16bit/44.1kHzは質感がややハーシュで低域を意識します。24bit/192kHzではパースペクティブが前後へ広がり空気感が変わります。さらに声の精細感が向上し、明瞭感が上がり定位感が良くなります。24bit/352.8kHzでは明瞭感が上がり、音の重なりがわかりやすくなり、定位感がさらに向上します。サウンドステージの比重がより下がり、パースペクティブは上下に広がり音に前から覆われる感覚になります。
DSD64では24bit/96kHzに精細感が近く、パースペクティブは上下に狭く前後左右に広がります。ピチカートのトランジェントの良さを感じます。DSD128ではサウンドステージの比重が下がり、パースペクティブは上下左右に広がります。精細感は24bit/192kHzに近く、明瞭感と定位感が良くなります。DSD256(352.8kHz)ではサウンドステージの比重が下がり、パースペクティブは上下前後に広がりますが、24bit/352.8kHzほど前へは出ません。精細感がありますが明瞭感はハーシュに感じます。
MQAではサウンドステージの比重が下がり、パースペクティブは上下前後左右に広がります。精細感は24bit/352.8kHzに並びます。声や音の明瞭感が上がり定位感が良くなります。ピチカートのトランジェントが良くDSDに並びます。音の芯と余韻表現が重層的に分離良く重なり、立体感が出て音に包み込まれる感覚がします。16bit/44.1kHzとDSD64はサウンドステージの重心が高い感覚がありますが、それ以外は重心が下がりサウンドバランス表現が良い印象を持ちました。
Quiet Winter Night -6 Blagutten
16bit/44.1kHzから順にスピーカー再生します(*1)。24bit/96kHzでは空気感が変わり、パーカッションとピアノの響きに繊細感が出て、音のトランジェントが向上します。比較すると16bit/44.1kHzはハーシュで滲みを感じます。24bit/192kHzでは定位感がよくなります。パーカッションの打音がリアルに感じ、パースペクティブが前後左右に広がり、とくに前方を意識します。24bit/352.8kHzでは精細感と音の深さが出て、定位感がよりわかります。サウンドステージの重心が下がり、パースペクティブは上下前後に広がります。トランペットやピアノの響きが抑えられエレキギターの歪感が少なく、楽器音のテクスチャが向上します。
DSD64ではパースペクティブは上下に狭いですが、音の質感がシルキーです。トランジェントは96kHzに近く感じますが、ハーシュで定位感もぼやけます。DSD128はDSD64より明瞭感が上がり定位感も良くなります。トランペットがウェットな質感です。ピアノやシンバルの響きは24bit/96kHzと並びます。パースペクティブはDSD64より上下に広がり、パーカッションが192kHzのように前に出ます。この音源のDSD128は24bit/192kHzと24bit/352.8kHzの間の印象がいたします。
MQAでは空気感が明瞭になり、定位感が向上します。トランペットの口元のハスキーな質感を意識できます。ピアノとパーカッションのトランジェントがよく、打音時の質感や余韻がよりわかります。ピアノやパーカションやエレキギターの響きは24bit/352.8kHzとほぼ並びますが、音の芯と余韻表現が重層的に分離良く重なります。サウンドステージは重心が下がり、パースペクティブが上下前後左右に広がり、包まれるような立体感を感じます。
16bit/44.1kHzから順に聞いて参りました。共通項としては16bit/44.1kHzと24bit/96kHzとの差は主として精細感と明瞭感、24bit/192kHz以上は主として空気感と定位感の良さを感じました。レゾリューションが上がるほどサウンドステージの重心が下がり、パースペクティブが上下前後左右に広がります。24bit/96kHzまでは滲みや付帯音を感じますが、24bit/192kHzからは空気感が開放的になり、比較的音にストレスを感じなくなります。
DSDの共通項としてはトランジェントの良さが挙げられます。レゾリューションが上がるほどハーシュ感が下がり、フォーカスに明瞭感が出ます。トランペットの音などBlaguttenの方がnon-DSDよりウェット感が出ています。DSDがウェット感とすればMQAはハスキーと表現しました。これは音のテクスチャ表現ではなく、MQAの方がより口元に近いような音と捉えたからです。
MQAは24bit/352kHzと比較的共通項が多いのですが、前回のリスニングの際に24bit/352.8kHzと比べサウンドバランスの点で低域が若干タイトと表現しました。しかし今回のリスニングではタイトさはほとんど感じさせませんでした。その点は後述するとして、以前から感じている点ではMQAの音を聞くとnon-MQAでは付帯音を感じます。音の響きが多く音の重なりがMQAほど明瞭ではないので、音の重なりがエネルギー感や迫力で表現されているのかもしれません。
その音の響きに関して、MQAのレビューでは音の芯と余韻表現と記しました。コンサートホールでの観劇時、楽器の鳴りと響きによる直接音と建築空間に広がった間接音が耳に届き、感覚を澄ませば複数の楽器の音の重なりが捉えられるものですが、MQAでは楽器の響きのリリースがnon-MQAに比べ短い印象を受け、敢えて音の芯と韻表現と記しました。また楽器の音の重なりが識別できることから、併せてコンサートホールでの観劇体験に近い音と感じています。
図1 フィルタ別スイープ信号の周波数スペクトル、FRLP(青) MP(赤)
図2 16bit/44.1kHz FLAC音源の周波数スペクトルのピーク、FRLP(桃) MP(黄)
図3 24bit/352.8kHz FLAC音源の周波数スペクトルのピーク、FRLP(桃) MP(黄)
Mytek Brooklyn DAC+はMQA有効/無効のスイッチが可能です(*2)。そこで今回のリスニングに使用したQuiet Winter Night -6 Blagutten
16bit/44.1kHz、24bit/352.8kHz FLAC音源を再生しスイッチを切り替えてみました。
図1、4は有効(MP)/無効(FRLP)時の再構成フィルタ特性を視覚化しています。図1では有効時はフィルタが穏やかに、無効時はシャープにロールオフしていることがわかります。図4では有効時はインパルスの前後に波状のリンギンングが伸びています。図2は16bit/44.1kHz、図3は24bit/352.8kHzのFLAC音源の周波数スペクトルのピークです。どちらかと言えば24bit/352.8kHzの方が重なりの部分が多いように見受けられます。
図4 インパルスレスポンス 上:線形位相フィルタ、下:最小位相フィルタ
リスニングでは24bit/352.8kHzよりも16bit/44.1kHzの方が可聴差があるように感じました。これは先述のレビューに重なる部分がありますが、無効つまり線形位相フィルタの方が打音が強くゲインが僅かに高いような印象を受け、最小位相フィルタは相対的にソフィスティケートな音の印象を受けます。ちなみにRMSとCrestFactorは同値を示しており、可聴差は思うより僅かです。
実はファームアップデート前のスイッチでは可聴差がないとは言えないという記憶でした。ところがカスタムFIR係数の調整後は可聴差がほとんどないとも言える程度に、FLACにおけるMQA有効時のサウンドと無効時のサウンドが近づいているように感じます。FIRの詳細はこれ以上知る由がありませんが、non-MQAファイルをMQA有効で聞いてもおそらく満足する結果が得られるのではないかと思います。それ以上は嗜好の範囲だと考えますが、いずれにいたしましてもBrooklyn DAC+はマーベラスな音質です。
注釈
(*1) 便宜的にフォーマット別サンプリング順にリスニングいたしましたが、この順番は音質の優劣とは無関係です。
(*2) Brooklyn DAC+ではMQA無効時は複数のデジタルフィルタから選ぶことになります。
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