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レビュー 立体音響ラボ バーチャル・オーディオ・リアリティの世界

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  株式会社アコースティックフィールド さん主催のACOUSTIC FIELD presents『立体音響ラボ Vol.7』立体音響ワークショップ #7 「バーチャル・オーディオ・リアリティの世界」へ行ってまいりました。 場所は東京・お茶の水駅からすぐのRittor Base。地下1階へ階段を下りていきます。 扉を開けると、薄暗い室内にPCやモニター類。  暗幕カーテンの中に3つの球体、アコースティックフィールド・久保二朗氏とスタッフが機材を調整中。  ヘッドホンを装着しタブレットPCをキーボード操作している模様。NGを前提にカメラを構えると、撮影OKが出ました。複数のアプリケーションが起動しています。  シュアーのヘッドホン。ヘッドバンドにトラッカーが装着されています。  球体はシルバーカラーのスピーカー。ワイヤレス?実はダミー。体験者に方位感覚を示すために設置しているとのこと。  暗幕カーテン内で照明を落とすとダミースピーカーだけが浮き上がってきます。体験者はこのトライアングルの真ん中に立ち、ヘッドホンとリュックサックを背負い立体音響を体験することになります。  ここで一部体験者インタビュー。 イベンター:面白かった。もし暗幕でなかったら、と想像した。 制作者:視覚を奪わないのでいい。雰囲気作りが短い時間でできる。 プログラマー:ヘッドセット使ってない。土砂降りだけど濡れていない。絵がないぶん想像する。映像と組み合わせてもいいが、単純に音だけでもいい。音だけの方が解像度があるようだ。 会社員:音が当たる。面ではなく音が降ってくる感覚。沖縄にいるような不思議な体験。インスタレーションのようなアートで使われることになれば世界観が広がるのではないか。 サウンドデザイナー:素敵。敏感さが素晴らしい。立体感のある雨がいい。映像より音だけの方が広がるのか。 サウンドデザイナー:高さ方向が出ていた。動いているか感覚があった。画面がないことが新鮮。  筆者の感想も重なりますが、冒頭は音の定位音像や質感に聴感が集中しました。やがて、近くに聞こえる音に手を伸ばすが何も無い。音がある方へ歩み振り向くが何も無い。天井から降るモノに包まれているはずが、身体には何も及ぼされていない。不思議な感覚の臨場感と没入感。  さらに、ヘッドマウントディスプレイのない状態は視野に自由さが加わり、立体音

コラム 音楽メディアとフォーマット・MQA Part12



 2018年1月6日、Stereophileのジョン・アトキンソン氏が「More on MQA」と題する記事を掲載しました。これは昨年末から始まったMQAに関する「AS WE SEE IT」シリーズの続編です。拙稿Part11では総論とご紹介しましたが、今回の記事の中で彼は一般論の側面を記述したと述べています。いわゆるマーケティング論でもありますので、後半のジム・オースティン氏の技術論の記事と併せてお読みい頂くと、MQAの議論のテーブルの広さと深さがわかるのでないかと考えています。該当の記事から引用し意訳させて頂きます。


「伝達される情報の経済...エンコードされたものだけが必要なものだけでした。ただそれだけのこと(脚注1)」

 「1月号の”As We See It”で書いたように、J. Robert(Bob)StuartとPeter Cravenによって開発されたエンコード/デコードシステムであるMaster Quality Authenticated(MQA) は、当誌や他でもMQAエンコードされたファイルは元のPCMオリジナルよりも音質が良い傾向があるとするレポートがあるにも関わらず、広く批判されています。 また先月号ではジム・オースティン氏がMQAの再構成フィルタのタイムドメイン性能を調査し、私はより一般的な側面について検討し、最後にこう記述しました”MQAの批評は密接に関わる音楽産業界、オーディオメーカー、消費者を議論に巻き込みます。来月は"As We See It."と題しこれらを説明します。」

 「この号(p.125)では、MQAに関する連載シリーズのPart2で、ジム・オースティン氏が情報理論の観点から主題を検討しています。Claude Shannon(クロード・シャノン)のこの用語のコイニングでは、情報・帯域幅および時間は”メッセージを送るためのアイデアが物理的可能性の範囲内にあることを示す3つの精緻で交換可能な量”とみなすことができる(脚注2)。MQAは冒頭のエッセイで述べた目標を達成することと等価を有しているように見えます。エンコードされるのは、必要なものだけです。」

 「しかし私がMQAの理論的洗練さを検討しているにもかかわらず、納得できずに不本意に録音したり反対したりする方がいます(脚注3)。たとえばJana Dagdagan氏が2017 AXPONAショーで業界人やオーディオファンとMQAについて話しましたが、彼女がカメラで自分の考えを分かち合えるかどうか尋ねると、半分以上の答えに温度差がありました。”働いている会社がまだ決定していないので、MQAに関する私見を公にしたくありません””最終的にMQAを採用するかもしれないので、私がMQAのファンではないことを人々に知らせたくありません””MQAは好きですが、私が働く会社は今のところそれをサポートしていません””私はまだMQAのブラインドテストしておらず、裏づけなしに意見を言いたくありません”。」
 
 「何度も繰り返される批判の1つは、MQAがデジタル著作権管理(DRM)を実装していることです。しかしMQAファイルのコピー・電子メール・共有を妨げるものは何もありません(但し、それらの販売はおそらくデジタルミレニアム著作権法に抵触します)。私はリスニングのために複数のサーバーに同じMQAエンコードファイルのコピーを持っており、すべて完全にデコードされます。ですから彼らが言及する”DRM”とは、MQA対応のデジタルプロセッサを持っていない限りMQAファイルから完全なハイレゾを得ることができないという現実をまさに話しています。」

 「これは1990年代から続くHDCDとまったく同じです。HDCD対応DACを使用している場合は、通常のCDのようなものが1〜2ビット高い解像度になります。HDCDデコーダを買わずともCD再生できますが、実効解像度は低くなります。その意味では同じ”DRM”の議論がHDCDについておこりました。HDCDデコーダがない人々に品質制限しました。」

 「もしMQAファイルをデコードせずに再生すると、音質はベースバンドファイルの音質になります。つまりCDと同じです。すなわちレコード会社は単一の在庫のみ必要となります。ストリーミング帯域幅の利点と同じく、MQAにはレコード業界にとってFLACなどのロスレス・パッキング・スキームには当てはまらない他の商業的メリットがあります。レコード会社はもはやハイレゾマスターのクローンを販売しません。その代わり彼らはマスターと同じくらい良い音、またはマスターよりも優れたものを販売します。しかしマスターを再作成することは許されていません。」

 「これはおそらくイギリスのMQA Ltd.の企業ファイルによるところのソニー、ユニバーサル、ワーナーの3大レコード会社がすべて株主である理由です。しかしオーディオファンがオリジナルのnon-MQAのハイレゾPCMファイルをダウンロードしたりストリームできる限り、なぜMQAが問題なのですか?もし仮にオリジナルへのアクセスができなくなり、MQAバージョンにしかアクセスできない場合はどうなるでしょう?私が推測するところ、これが多くの人々がMQAの考え方に反対する理由です。Ayre AcousticsのCharley Hansen氏は11月、Audio AsylumのWebフォーラムで指摘しました。2016年9月にジム・オースティン氏がMQAのSpellcer Chrislu氏にStereophileでインタビューし、いつの日か全てのデジタル音楽がMQAエンコードされることを希望し期待しているか尋ねたところ、Chrislu氏は率直に答えました。”ええ、それが目標です!”」

 「”これが私たちが懸念し、心配し、質問しなければならない、質問に答えてもらう必要がある理由です”と昨年11月に亡くなったハンセン氏は書いています。”私たちはこの権利を得たいと思っています。賭けのコストは高過ぎます!” 」

 「我々は企業統合の時代に暮らしています。Amazon, Google, Facebook, YouTubeがどのように私たちの暮らしを支配しているか。ゆえに潜在的に減少した選択の余地。そして私がこれらの言葉を書いている時に、FCC(米連邦通信委員会)がnetwork neutrality(ネット中立性 *1)の終焉を発表しました。それ(ネット)を私は情報伝達の基盤とみなしています。MQAの技術的洗練さと音質の向上が約束されているにもかかわらず、録音音楽における消費者の選択の収奪は、確かに関連性のある問題です。- John Atkinson



脚注1:Jimmy Soni氏とRob Goodman氏によるHomer Dudley氏の1939年のボコーダーの発明の議論から、A Mind at Play: How Claude Shannon Invented the Information Age, p.100 (Simon & Schuster: 2017).
脚注2:Shannonは1948年の画期的な論文"A Mathematical Theory of Communication" (A Mind at Play, p.135) にRalph Hartley氏の用語情報を採用しました。
脚注3:HDtracksとHighresaudioがハイレゾファイル配信前のチェックに使用しているドイツの企業XiVero社のStephan Hottoによる長い分析を参照してください。

 注釈
 (*1) ネットワーク中立性とは”インターネット上の全てのデータを平等に扱うべきだとする考え方”です。(引用:Wikipedia 最終更新 2017年12月14日 (木) 08:09) アメリカの独立委員会(FCC)が2017年12月14日 ネット中立性規制を撤廃する法案を承認したことで、各方面で賛否があり法廷闘争に波及しています。- INORI


 続いて2018年1月6日、Stereophileのジム・オースティン氏が「MQA Tested, Part2: Into the Fold」という記事を掲載しました。前回の「MQA Tested」の続編で今回は"audio origami"フォールディングについて取り上げています。とくにMQAはロスレスか?ロッシーか?についても技術的な考察から論じています。該当の記事から引用し意訳させて頂きます。

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 「Loss is nothing else but change, and change is Nature's delight.(ロスは変化に他ならなりません。変化は自然の喜びです。」- マルクス・アウレリウス

 「業界の経験豊かなBob Stuart氏(ボブ・スチュアート)とPeter Craven氏(ピーター・クレイヴン)のオーディオコーデックMaster Quality Authenticated(MQA)には2つの柱があります。音質を改善するためのタイムドメイン動作の改善と、MQA社が”オーディオ折り紙”と称するファイルサイズ(ダウンロード用)とデータレート(ストリーミング用)の削減です。先月、これらのうちタイムドメインの問題を最初に取り上げ、MQAのアナログ to アナログシステムのアウトプット側である”アップサンプリングレンダラー”のインパルス応答を調べました(脚注1)。今月は第2の柱であるMQAのデータレート削減アプローチを最初に見ていきます。とりわけMQAは”lossy(ロッシー)”コーデックだという批評について検討します。」

 「MQAはロッシーですか? はい。しかしそれは適切な質問ではありません。これはMQAのボブ・スチュアート氏やMQAに対応していないメーカーのデジタルエンジニアなどの専門家と話したあとの結論です。最悪の場合、"lossy”(という言葉)は棍棒で、MP3との関連性やネガティブで感情的な反応を誘発する意図を持つ脅し言葉です。最良の場合、ロッシー対ロスレスの一つの問題として枠にはめることは重要なポイントを見失います。」

  「批評する人々はよくインターネットの増加し続けるダウンロード速度によりMQAのファイルサイズ削減が不要になると主張しています。FLACのようなおなじみのロスレスコーデックや、全く無圧縮のものを使うことができるにも関わらず、なぜ実績のない”ロッシーコーデック”に走るのかと。しかしコーデックのあらゆる側面を見たときに、データレート削減に対するMQAのコミットメントには真剣な理性的見解があります。(ボブ)スチュアート氏にとって音楽情報の配信における効率性は審美的であり倫理的なコミットメントでさえあります。」

 「誰もが同意するように、どの音声録音においても最も重要な情報は20Hz〜20kHzのオーディオバンド、すなわち人間の耳に聞こえる周波数範囲内にあり、オーディオバンドはCDの44.1kHzサンプリングレートで十分にカバーされますが、うまく動作するアンチエイリアスフィルタを狭い遷移帯域に押し込むことは課題を提示する警告付きです(脚注2)。48kHzのサンプリングレートは、より緩やかなフィルタリングのために少し余裕があります。」

 「それでは48kHzはいかがででしょうか?ミュージシャンやレコーディング・マスタリング・ハードウェアエンジニアが仕事をうまくやっていれば、確実に48kHzのディストリビューションフォーマットから一貫して良いサウンドを得ることができます。しかしサンプリングレートを2倍の96kHzにすると音質が向上すると広く考えられており、再び2倍し192kHzになるとさらに改善される。そしてさらに続きます。これらは慣習的な知識であり、無数のオーディオ愛好家による多くの主観的な経験の結果です。しかし最近ではハイエンドオーディオや実際の科学的エビデンスにおいて希少なものが浮上しています。(脚注3)」

 「すべてに近い人々がサンプリングレートを上げると品質が向上することに同意すれば、倍増するごとに音質的な恩恵が低下することにもほぼ同意します。そして必要なデータレートは急速に膨大なものとなります。PCMのハイレートバージョンとして一般的に用いられているDXD(352.8kHz)では、データレートは私たち自身の神経回路のキャパを超えている可能性があります(脚注4)。これらの全てのデータが意味のあるものだとしても、私たちが取り込める以上のものになるでしょう。幸いにもそれらのすべてに意味があるものではなく、または意味がありません。これらのデータのほとんどすべてが実際にはノイズです。」

 「"audio origami"をともなうMQAの目標は、ファイルサイズやデータストリーミングの増加に比例して音質が向上するように改善することです。これは私が言及した審美的で倫理的なコミットメントです。この点についてはボブ・スチュアート氏がかなり意識していることがインタビューから明らかになりました。しかしジョン・アトキンソン氏がこの問題の”As We See It”で指摘しているように、その考え方はStuart氏とCraven氏が先駆者ではありません。これはデジタルオーディオの基礎の多くを築いたClaude Shannon氏(1916-2001)によって最初に表明されました。実際にMQA圧縮の重要なアイデアである平均1ビットの情報量がどの程度の情報量で表現されているかを示すコミュニケーション理論の測定単位があります。Shannon(シャノン)です。」

 「スチュアートとシャノンの効率性の概念は魅力的であり、私には常識的に見えます。ハイキングで岩の袋を引きずったり、隣のアパートを訪れるのに街の長さ分を歩く人はほとんどいません。しかし音声の一般的な見方では、どんなにシャノンが少数派であろうとも、音楽データのすべてにしがみつかなければならないということです。このアプローチを拒否することがMQAのいくつかの革命的な事柄の一つです。」

 「かなりの数のレコーディングは、オーディオバンド(可聴帯域)(脚注5)の上に音楽関連の情報を持っています。"少し”上に。あなたはそれを直接的に聞くことはできませんが、楽器には高調波があります。そこにあるものを我々はできるだけ多く保った方が良いです。しかし音楽とノイズを区別しようとしないと、これは大きなペナルティ(不利益)になります。なぜならオーディオバンドより上に行くほど実際の情報は少なくなります。スチュアート氏は私に電子メールで48kHz以上の音楽情報を含む録音物は1%未満であることに言及しました。事実かどうか、MQAエンコーダがそれらの情報を収集しますから。」

 「オーディオ・オリガミは2つの異なるプロセスからなります。MQAはそれをフォールド(折りたたみ)と呼びます。カプセル化と呼ばれる最初のフォールドはベースバンドレートの4倍(176.4または192kHzサンプリング)かそれ以上のデータをその半分のレートまでフォールディングします。DXDのような超ハイレートファイルは2回カプセル化フォールドします。」

 「タイプLと呼ばれる第2のフォールドはデータを2倍から1倍に、96から48kHz、または88.2から44.1kHzにフォールドします。これは超高域音楽情報の大部分がある範囲です。したがってこれらのデータをそのまま維持することが重要です。」

 「私はMQAのこの側面について勉強し電子メールでスチュアート氏に質問するのに多くの時間を費やしました。私はなんとかラフな概略的な理解に達することができました。MQAそのものではなく何が問題で問題でないのか、MQAがどう機能するのかということではなく、おそらく機能するだろうと。」

 「まず、カプセル化フォールドに焦点を当てます。」

 「この記事の重要な質問に答えます:MQAのカプセル化フォールドは"lossy"。それは結構です。MQAの議論に進むのですが、私はほとんど同意します。なぜならその超高域周波数にはほとんどノイズしかないからです。ほとんど。ノイズはノイズであり、つまり均一不変です。ノイズの性質について少々学ぶ必要があります。そのレベル、そのスペクトルは位相関係かもしれません。あなたは最小限のスペースでその情報を保持することができます。べき級数近似のほんの少数の係数。これがノイズフロアの下に埋め込まれ保持され、エンコード中にノイズを完全に除去すれば、埋め込まれた情報を使用してデコード段階でノイズを戻すことができます。繰り返しますが、私はMQAがこのように動作すると言っているわけではありませんが、このように動作すれば、オーディオ品質の劣化がほとんどまたはまったくありません。」

 「しかし上記の録音の中にはそのような高い周波数で音楽関連の情報がほんのわずかに存在することがあります。それがあれば保ちたい。MQAはどのように対処していますか?私は多くが保持されると信じたいが、しかしこの点について100%明確ではないことを認めます。私たちとのやりとりの中でスチュアート氏は”相関スペクトルデータ”の保持の重要性を強調しました。彼の言う”相関”とは、オーディオバンドの実際の音楽であり、”微小時間構造として示されるもの”で、これがMQAの本質です。彼が伝えたMQAエンコーダは”48kHz以上のスペクトラム成分”を検出でき、2000以上のカプセル化アルゴリズムの中から選択することを含め”いくつかの方法”があります。エンコーダには”デコーダが信号の’エンベロープ’および”スルーレート”を最も正確に再現するオプションを選択できます。これは音楽的に関連する情報を保存されること意味しますか?どれほどうまく。先述のように私は確信していません。スチュアート氏はこの点についてコミットしませんでしたが、それをスルーすることには多くの問題があるように思います。」

 「ここでデータを44.1または48kHzの伝送速度にするLタイプフォールドを考えてみましょう。私はスチュアート氏にLタイプフォールドが通常の伝統的な意味で元のデータをビットパーフェクトな形で復元することができるロスレスかどうか尋ねました。それは複雑な仕事であり、彼の答えは特徴的に微妙で、いくつかの注釈があります。スチュアート氏の注意深い注釈付き回答の要点は、以下のとおりです。」

 「MQAエンコーダは”三角形”と適切な保護帯域を推定し、それをLタイプでエンコードすることができます。Lタイプフォールドでは、上位オクターブはとても良好な波形予測をする特定の2バンド予測器を使用します。それからマスタリングの選択によりロスレス的に埋め込まれます・・・残りの”タッチアップ”信号はノイズフロア下に詰められます。」

 「これは言うほど複雑ではありません。左の”三角形”は(ノイズフロアより)上の音楽情報に囲まれた領域と、それより下のノイズフロアと左端から2倍の周波数領域の下限を示しています。言い換えれば、すべての音楽相関データがあるところです(図1)。”保護帯域”はリカバリ可能な音楽情報を含む可能性のあるノイズフロアの数ビット下にあります。調査によればノイズフロアの10dB程度下まで聞こえています。」



図1 Spectral analysis, 0Hz–96kHz, the "musical triangle" (blue trace), bounded by noise (orange trace) at its base and the baseband Nyquist frequency (vertical line at 22.05kHz) to its left (5dB/vertical div.). 



 「スチュアート氏は”いずれにしても、カプセル化ステップの結果として完全なストリームが正確に”Core(コア)”にデコードされる”と結論づけています。」

  「そしてスチュアート氏は、Lタイプフォールドではノイズフロアの上の音楽的な情報とノイズの一部はlosslessly(ロスレス的)に圧縮され、Lタイプフォールドが発生する以前の正確なものにデコードにおいて完全に再現されると述べました。(どうもノイズは完全にはレンダリングされておらず、あるいはすべてがそうだということでもない)。このすべてがロスレス/ロッシー方程式全体の問題の所在を示唆し始めています。何と比較してロスレスですか?」

 「ロスレス性の問題をまとめます:フォールディングとアンフォールディングにおいて、MQAは音楽関連のデータとノイズを区別し音楽関連のデータを保持しようとしますが、ビット単位でノイズを保存することを心配する必要はありません。これによりMQAは特定の帯域の大きく重い重要でないノイズの重荷なしにハイレゾデータの利点を維持するという目標を達成することができます。」

 「私は現時点でMQAデコードファイルに見えるもの、すべてのニュアンス、そして意味することを明らかにしたいと思っています。しかしMQAファイルを記録し分析し試したりしましたが、ほとんどパターンに気付きませんでした。おそらくMQAの2000以上のカプセル化アルゴリズムのほとんどに遭遇しました。どのMQAファイルも異なる方法で、多くの異なる方法で明らかにnon-MQA音源から分かれており、ときには全く異なるように見えます。いつもMQAの複数の側面を理解するたびに、自身のセオリーに合致しないファイルがあることがわかりました。」

 「したがって典型的なMQAファイルを示す代わりに、そのようなものはありませんが、極端に外れたものをお見せします。MQAデコードを有効にしたMytek HiFi Brooklyn DAC+の出力をオーディオインターフェイスのFocusrite Scarlett 2i2を使用してキャプチャしました。高速フーリエ変換(FFT)はAdobe Auditionを使いました。Focusriteは192kHzの最高サンプリングレートに制限されているので高い周波数は捉えていません。Focusriteは60kHz以上の周波数で自己ノイズがありますが、すべてのデータで同じでなければなりません。違いがあれば現実です。」

 「図2はMQAファイルとそれがエンコードされたと思われるオリジナルDXDファイルのランインノイズと数秒間の音楽の周波数スペクトルを示しています。DXDノイズはブルー、MQAノイズはターコイズブルー、DXDデータはマゼンタ、MQAデータはオレンジ色です。」



図2 Spectral analysis, 0Hz–96kHz, Prolog for soprano and piano, DXD run-in noise (blue), MQA run-in noise (turquoise), DXD music data (magenta), MQA music data (orange) (5dB/vertical div.). 



 「この測定値は今までMQAファイルが作成された中で最も劇的な変化を示しています。MQAによって追加されたノイズは約10kHz(オーディオ帯域内)で上昇し始め+10dB上がり20kHzではそれ以上に達します。ノイズはオーディオ帯域を超えて30kHzで20dB上がり続けます。」

 「これらのファイルの違いは非常に大きいので、聞くことができるかもしれないと思いました。とくに例になく長い約4秒という録音のランイン区間で。そこで外来の環境ノイズを最小限に抑え、建物のボイラーファンがオフになるのを待って音量を大きくしました。ランインと最初の数秒間の音楽を何度も繰り返し再生しました。RadioShack SPLメーターは110dBを超えるピークレベルを示しました。(C-rated, slow) 」

 「音楽はProlog, the first section of Olav Anton Thommessen's Veslemøy Synsk (after Grieg), for soprano and piano (Marianne Beate Kielland and Nils Anders Mortensen),  DXD録音を複数フォーマットで入手できます(2L 2L-078)。MQAやDXDでは音楽は最高で音質も素晴らしいです。」

 「違いを聞くことができなかっただけでなく、MQAでもDXDでも最初のピアノノートの前には何も聞こえませんでした。ラインインノイズも聞こえませんでした。レコーディングエンジニアのMorten Lindberg氏は入念に制作しています。驚くことではありません。」

 「先に私はロッシー性/ロスレス性の問題は主題から的が外れていると述べました。ここに得たものがあります。確かにこの録音のMQAバージョンには違いがあるということです。そしてMQAエンコード/デコードによる変化は、たとえ聴こえなくても、解像度のロスを示すようです。とは言うもののDXDとMQAバージョンの違いに原因があろうと、origamiかエンコーディング中に起こった他の変化の結果であろうと、我々はすでにそれを知っていました。我々はすでにMQAが音楽を変えることを知っていた。MQAの目標は音楽のサウンドをより良くすることであり、手段を変えることなく音楽の音質をより良くすることはできません。ロッシー性は主題から的が外れています。」

 「さて、どのようにMQAを評価すべきですか?次のステップはボブ・スチュアート氏とMQAチームの協力が必要な優れたタイムドメイン動作を実際に示していることを確認することです。それ以降のステップでは、MQAのサウンドを精密な方法で理解することです。これは主観的な観察を超えたものです。その後、分析と入念なリスニングを通してタイムドメイン改善に対する周波数領域の劣化がどれほどか比較検証します。」

 「最後に、MQAが音楽に良いか悪いかを判断する必要があります。我々オーディオファンは、おそらくMQAの運命を決めることはできませんが、意見を持っています。」- Jim Austin



脚注1:今後の記事でMQAのタイムドメインの主張について詳しく書く予定です。
脚注2:フィルターによるカーブとコーナーがタイムドメインでリンギングを誘発します。
脚注3:ハイエンドオーディオにおける多くのものと同様に、エビデンスは主として根拠に乏しいですが、いくつかの研究が行われており、その結果は2016年に発表されたJoshua D. Reiss氏によるメタ分析にまとめらています。結論:高サンプリングレートは聞き取れますが、その効果は小さいです。
脚注4:このトピックについて記述するとき不便な専門用語が必要です。トランペットはノイズを発しますがあなたには聞こえない場合、それは音楽ですか?森で木が...
脚注5:最も多くの超音波情報を持つ楽器は、シンバルのようなものである傾向がありますが、通常、高調波はありません。 




 前回と同様にMQA
のコメントが寄せられており、上記の分析の背景解説と補足がなされています。

 「エディター:ジム・オースティン氏のロッシー/ロスレス問題の評価は鋭いです。ロスレス圧縮を開発した後(脚注1)、我々はデジタル伝送路におけるロスレス性がいくつかの重要な問題に対処していないことを認識しました。ジムは”何と比較してロスレス”という質問を提起し、これがキーポイントです。データはビット単位でD/Aコンバータに転送することができますが、アナログへまたはアナログからのロスレスコンバータなどありません。実際には、現実のコンバータの内部信号はほとんどビット再現性がありません。そのためMQAは可能な限り緊密に”ロスレス”なアナログ to アナログパスをリスナーに提供する問題に着手するために、ロスレス経路を超えて一歩踏み出しています。そして利便性と柔軟性といった実世界の話題だけでなく、コンバータの実用的な問題に取り組んでいます(脚注2)。

 「どんな設計システムでも設計の決定と特性のバランスが必要です。”より速い馬”を作ることで進歩を続けるよりも、我々は高度なサンプリング理論、聴覚神経科学、そして数百時間のリスニングの成果からインテリジェントなバランスに到達するという洞察を得ています。(MQA)認証はレーベルによって署名された音が忠実に再現されていることを示します。変調アーチファクトが無いことは”lossy”コーデックと現実の”lossless digital”の両方からのMQAの距離を引き離します。最終的に判断するには現実に1つの手段しかありません。それは聴くことです。」

 「最後に、2LのVeslemøySynsk(2L 2L-078)の分析についてのコメント。このアルバム(2011年5月リリース)はMQAエンコード初期
(2015年12月)の1つです。DXDは最も意義深く魅力的な音源です。コンバータは世代によりノイズフロアの点で大きく異なります(図3参照)。この2年間で我々はさまざまなコンバータデザインにベストマッチするようにカプセル化とdeblurring(デブラリング)工程を着実に改善しました。2Lの場合、いくつかのアルバムはレコーディングエンジニアのMorten Lindberg氏により再エンコードされ、我々は有益だったと感じています。(脚注3) 」

図3 Analysis of 2L 2L-078. Background noise is assessed over the 3 seconds between 0:01 and 0:04. The music is captured at 2:50. The original noise (dark blue) and music (magenta) are plotted for the full DXD frequency range. The decoder output is shown for comparison: a recent encoding of noise (brown) and music (orange); the noise floor of the December 2015 encoding (cyan). The plots of the 2015 encoding agree well with Jim Austin's analog measurements of that file (although in the analog domain thermal noise has limited the dynamic range below 48kHz) (24dB/vertical div.).

 「2L-078は初期のSphynx2コンバータを使用した12作のアルバムの1つです。これらの多くは今冬リマスタリングされる予定で、この記事の頃には2Lから入手できるはずです。図4は最新のツールを使用してオーディオ帯域にノイズが追加されていないことを示しています。(既に聞き取れないのだけれど、素晴らしい音でした)」 - Bob Stuart, MQA


図4 Four models of DXD converters, idle noise-floor spectra (24dB/vertical div.). 



脚注1:Peter CravenとBob Stuartが率いるMQAの技術チームは1995年に音楽業界で初めてロスレス圧縮を実演しました。故Michael Gerzon氏は主導した一人です。
脚注2:例えば、MQAシステムの階層的な性質は、デコーダなしでの再生を含め一つのファイルで複数の再生シナリオを可能にします。 
脚注3:Magnificat(2L-106), Mozart Concertos(2L-038-2016), Piano Improvisations(2L-082), Quiet Winter Night(2L-087)などの重要な例を含む。





 前半のジョン・アトキンソン氏の記事では、海外のMQA懐疑論の主要なテーマ"DRM"に焦点を当ててます。そのDRMとは一般的なコピープロテクトではなく、HDCDに実装されている再生機能制限と同質のもの、そして市場メカニズムに視野を広げ、オリジナルの音源にアクセスできなくなる可能性を危惧する声を今日的なネットワーク中立性の問題に言及しつつ取り上げています。

 後半のジム・オースティン氏の記事では、"audio origami"フォールディングとロッシー/ロスレス論について焦点を当てています。前項ではフォールディングのメカニズムである音楽関連データとノイズを区別するエンコード・アルゴリズムの解説を、後項では前項を受けてMQAが音を向上させるために変化を伴うことを肯定し、それそして何と比較してロスレスなのかと懐疑論に疑問を呈しています。

 メーカーからのコメントでは、オースティン氏のロッシー性/ロスレス性分析について肯定的に評価するとともに、Stereophileの分析後に行ったエンコード技術の改善後の分析レポートを掲載しています。今回の記事では、とくにアトキンソン氏の論点は国内ではほとんど論じられていませんし、またオースティン氏の記事はスチュアート氏と頻繁に技術論を重ねたことがよくわかり、それから率直に論考されているように感じます。前回より少し難解ですが、ぜひお役立てください。

 最後に、前回に引き続き記事の引用の機会を頂きましたStereophileのジョン・アトキンソン氏へ感謝申し上げます。 


*「」の引用文は英文を意訳したものです。正確性が必要ならば各本文をご参照下さい。
*画像出典:Stereophile「MQA Tested, Part2: Into the Fold」Jim Austin | Jan 6, 2018




コラム 音楽メディアとフォーマット・MQA Part1 - MQAとは?
コラム 音楽メディアとフォーマット・MQA Part2 - MQA波及予測
コラム 音楽メディアとフォーマット・MQA Part3 - CAのMQA Q&A
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コラム 音楽メディアとフォーマット・MQA Part6 - TIDALのMQA対応
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