兵庫県立芸術文化センターで行われた「
芸術文化センター管弦楽団 特別演奏会 PAC meets OZONE」へ行って参りました。師走に入りようやく例年並みの寒さ。外出時にはウールのセーターを着衣しコートを羽織り首にはマフラーを巻きつけ冷たい風を防ぎます。かたや街路樹は一時生い茂っていた木の葉を脱ぎ捨てています。どちらも冬支度です。公共交通機関を利用し会場へと急ぐ人並みへと合流いたします。
会場はKOBELCO 大ホール。ステージにはヤマハのグランドピアノCFX、ウッドベース、ドラムセット。その背後に指揮台と中規模編成のオーケストラのセット。座席は3階中央。周囲を見渡せば老若男女、様々な年齢構成のオーディエンス。開演間近のアナウンス後、ステージ両側の扉が開き、兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の皆さんがステージに登場すると客席から拍手が沸き起こります。
続いてコンサートマスターの豊嶋泰嗣さんが登壇しチューニングが始まります。音程が揃ったところで客席が暗転、小曽根真さん(ピアノ)、中村健吾さん(ベース)、高橋信之介さん(ドラムス)、熊倉優さん(指揮)がステージへ登場するとひときわ大きな拍手が起こります。いよいよ開演です。
日本経済新聞:「ジャズピアニスト小曽根さん クラシック演奏に挑む」より
演目は
・モーツァルト:ピアノ協奏曲 第9番「ジュノム」ジャズ・アレンジ版
Ⅰ Allegro Swing
Ⅱ Andantino Tango
Ⅲ Rondo:Presto Be-Bop
編曲:小曽根真、オーケストレーション:兼松衆
(休憩)
・トリオ:ジャズ・インプロヴィゼーション
・小曽根真:Pandora (オーケストラ版編集:兼松衆)
・小曽根真:Cave Walk(オーケストレーション:岩城直也)
・小曽根真:No Siesta(オーケストレーション:岩城直也)
(アンコール)
ジャズピアニスト・小曽根真さんがクラシック音楽にチャレンジしていることは以前より知られていたことですが、実際にはライブで聞いたことがありませんでした。そしてこの度、PACオーケストラと共演することを知り、しかもジャズトリオとオーケストラがモーツァルトを演奏するなどプログラム構成への関心も高いものがあります。胸、高鳴る公演です。
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第9番「ジュノム」:第一楽章。熊倉さんがタクトを振り下ろし、オーケストラの演奏からのイントロダクション。明朗快活な音。そこへ小曽根さんらトリオが入ります。オーケストラにドラムのリズムが入る新鮮さを覚えつつ、視覚的にトリミングしたら前後で別の演奏会になり得るところを、聴覚的・構成的には散発・レイヤー状に重なり合うPACオーケストラとOZONEトリオ。
トリオがオーケストラの一部としてプレイングし、オーケストラがときにビッグバンドのようにスウィングする。一体どこからがクラシックでどこまでがジャズなのか。それは”カデンツァ””インプロヴィゼーション”という言語表現の違いが意味として”即興”と通底しているような”音楽”あるいは”演奏”という根源的なところまで惹き込む第一楽章。
第二楽章。チェロの物憂げなソロワークに小曽根さんのピアノが応え、悲哀気なやりとりが2人のプレイヤーだけの音色に投影され、タンゴの持つノスタルジックさが表出します。ヤマハのグランドピアノは総じて精彩のある豊かな響きを立てていましたが、小曽根さんの鍵盤による不協和音が重苦しい雰囲気を演出し、モデレートな演奏でした。
第三楽章。ふたたび明るく躍動感のある音。ドラムスとベースのグルーヴに自然と体が動きます。PAC団員の中にも上半身が揺れている方がいました。奥村晶さんによるトランペットのソロはミュートを付けてのジャズ。モーツァルトとラグタイムの境がない小曽根さんのピアノによるマジックのような演奏に魅了されつつ、高揚感のあるクライマックスを迎えると客席から複数の歓声が上がります。
休憩中にコンサートチューナーが入ります。前半は黒系のシャツだった小曽根さんが赤系のシャツに衣替えで登場。トリオでのジャズ、インプロヴィゼーション。ベースから始まりドラムス、ピアノと続きます。ピアノは前半の余韻が残るバロック音楽のようなフレーバーを感じます。篤実でハイセンスな演奏。ジャンルの枠を超えると一口に言えど、超え方に魅力があるのだと感じます。
小曽根さんがマイクを握り、聴衆へ挨拶。モーツァルト「ジュノム」はビッグバンド版のアレンジが最初で、今回オーケストレーションを後輩にあたる兼松衆さんに依頼した旨が語られます。それからメンバー紹介とPACオーケストラ、マエストロ・熊倉さんをステージに呼び、後半のトリオとオーケストラの共演がふたたび始まります。
後半はオリジナル。1.「Pandra」。不穏な音の中に楽しい音がパッケージされているようなミステリアスな楽曲。オーボエのソロが幻惑的な雰囲気を醸し出します。小曽根さんが再びマイクを握り、直近リリース作品のジャンルを超えた取組みなどに触れ、ラテンとジャズの壁を取り払う作品と次曲を紹介。2.「cave walk」ドラムによるリズムの種子がホーンセクションへと繋がりオーケストラで華やかに開花。トランペットは都会的でソウルフル。スムーズな好演でした。
3.「no siesta」 スピード感のある楽曲はPACオーケストラとジャズTRIOが一体となりビッグバンド的な煌びやかさとオーケストラのソフィスティケイトさが両立するスリリングな演奏。マエストロ・熊倉さんが小刻みに揺らす背中も印象的。このままずっと聞いていたいくらいエキサイティングな演奏でした。今までほとんど聞いたことがない”ブラボー””イェー”と歓喜の声が交差するカーテンコール。
アンコールは「きよしこの夜」。この季節にマッチングするよう急遽楽譜を仕上げたとか。1番はPAC団員さんらが歌い、2番は客席が歌う趣向。演奏だけでも感銘を受ける内容でしたが、最後に客席と一体となる演出には心和む感情と同時に冒頭に感じた音楽や演奏の本質に再度触れる思いが致しました。
今回のシンフォニック・ジャズのプログラムを通して言えることですが、アレンジ。そこには高度に洗練したテクニックやパフォーマンスによりジャズやクラシック音楽のジャンルを超越する小曽根真さんやステージ内外の皆さんのアートがありました。そして演奏会で直感的に感じたことは極めてシンプルでした。”音楽は楽しい”。
- INORI
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