兵庫県立芸術文化センターで行われた「
佐渡裕とスーパーキッズ・オーケストラ 2019」へ行って参りました。早朝、窓を開けるとようやく冷めた風が入り、厳しい夏の名残を感じ始める昨今。しかし昼過ぎからは気温が上がり、湿度が高く汗ばむ陽気となりました。日中はまだまだ陽光が強く射し、緑深く生い茂る歩道を歩きます。
会場へは20分前に到着。広場にはダンス練習する若者たち、ぼんやりと往来を眺める人たち、待ち合わせらしき人たちといつもの光景。2階のエントランスホールに入ると活気で溢れ、いつもより若年層が多く目立ちます。下は小学生くらいでしょうか、家族連れや団体での来場者が方々にいらっしゃいました。KOBELCO 大ホールの座席は2階中央寄り。
大ホールのステージにはセンターに赤い絨毯の指揮台と、それをとり囲むように弦楽団の椅子が配置され、コントラバスが正面背後に。上手後ろ寄りには白い筐体に赤い縁取りのチェンバロが視界に入り、演目の一部にあるバッハ・ブランデンブルク協奏曲が脳裏を過ぎります。チェンバロの演奏は日頃あまりお目にかかれませんので期待感を催します。
開演間近のアナウンス後、客席の照明が暗転しステージ下手の扉が開き、佐渡裕さんがステージに登壇すると客席から大きな拍手が起こります。佐渡さんがマイクを握り、今回のコンサートの主旨説明がなされ、そのあいだに
スーパーキッズ・オーケストラ(SKO)の皆さんがステージでスタンバイ。いよいよ開演です。
演目は
・ホルスト:ゼント・ポール組曲 Op.29-2より 1.Jig
・ピアソラ:アディオス・ノニーノ
・チャイコフスキー:メロディ「なつかしい土地の思い出」Op.42より第3曲
・エルンスト:<夏の名残のバラ>による変奏曲
・ドヴォルザーク:弦楽六重奏曲 イ長調 Op.48より 第1楽章:アレグロ・モデラート
・J.S.バッハ:ブランデンブルグ協奏曲 第3番 ト長調 BWV1048 第1-第3楽章
(休憩)
・ウィーラン:「リバーダンス」より「アメリカン・ウェイク」
・モーツァルト:弦楽四重奏曲 第17番 変ロ長調 K.458「狩」より第1楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサイ
・池田明子 編曲:日本の歌百選より「日本の歌」
・レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲 1-4
(アンコール)
事前アナウンスでは3楽曲のみでしたので、会場でプログラムに目を通した際には少し驚きました。非常にバラエティに富む内容です。また8/31と9/1では演者・演目が一部異なり、筆者は9/1のコンサート(定期演奏会)に参加いたしました。
ホルスト:ゼント・ポール組曲 Op.29-2より 第1曲ジッグ。佐渡さんが早速指揮台に立つと、一拍置いて手を振り上げます。一聴してキレがあり開放的な音。中央寄りのセッティングはホールに放たれる音に纏まりを感じます。普段、同じ会場でのPACの演奏とはホール特有の音質感こそ共通項があれど、やはり演奏に違いを覚えます。
ピアソラ:アディオス・ノニーノ。ここ数年、クラシックコンサートや音源でピアソラ作品を聞く機会が増えています。この作品は悲哀から次第に清々しさのようなメロディに繋がっていく感動的な楽曲。後味が爽やかな好演でした。
チャイコフスキー:メロディ「なつかしい土地の思い出」Op.42より第3曲、エルンスト:<夏の名残のバラ>による変奏曲の2楽曲はヴァイオリン・ソロ奏者による各演奏。前者はピュアな、後者は複雑な音色を端正に丁寧に表現していました。
ドヴォルザーク:弦楽六重奏曲 イ長調 Op.48より 第1楽章:アレグロ・モデラート。SKOの活動に参加されているというヴァイオリニスト・
小野明子さんがライトブルーの鮮やかなドレスを纏い加わり、ヴァイオリン x2、ヴィオラ x2、チェロ x2の編成。しなかやで軽やかな明るい演奏に身を委ねます。
J.S.バッハ:ブランデンブルグ協奏曲 第3番 ト長調 BWV1048 第1-3楽章。オーケストラの編成に戻り、チェンバリスト・
植山けいさんが加わります。チェンバロとチェロ以外は立って演奏するスタイルでしたが、明るく溌剌とし、より開放感のある音に新鮮味を覚えます。また舞台上での身体的パフォーマンスに心踊ります。
休憩を挟み、後半はSKOのメンバーによる司会で始まります。後に受けた印象では、前半は静的、後半は動的な雰囲気。ウィーラン:「リバーダンス」より「アメリカン・ウェイク」。佐渡さんお気に入りの楽曲とのこと。アイリッシュ・ダンスの軽やかなリズムに乗り、オーケストラが身体を大きく揺らし演奏します。ソロパートあり手拍子ありと演者と観客が一体となります。
モーツァルト:弦楽四重奏曲 第17番 変ロ長調 K.458「狩」より第1楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサイ。カルテットへ場面展開し、ヴァイオリン x2、ヴィオラ x1、チェロ x1の編成。ソフトタッチの明るい音色に息がぴたりと合った心地よい演奏でした。
池田明子 編曲:日本の歌百選より「日本の歌」。佐渡さんとSKOが東日本大震災の被災地支援活動を通して現地で喜ばれるという身近な楽曲のメドレー。”さくささくら”から始まり童謡、懐かしい曲まで。アレンジが秀逸で、メロディを頭の中で展開しながら、しなやかなオーケストラの響きに聴き入ります。
レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲 1-4。2012年にフランス・パリで行われた
3.11メモリアルコンサートでSKOが演奏したという記念的な作品だそうです。透明感があり華やいだ雰囲気も僅かに感じ、深みのある緻密な音に魅了されます。万雷の拍手でカーテンコール。
プログラム終了後、高三生の卒業イベント的な時間。彼らの佐渡さんへの感謝の言葉に筆者も涙腺が弱くなったもので少々もらい泣き。続いて、アンコールはアンダーソン:フィドル・ファドル、そしてSKOメンバー・阿部さんによるオリジナル作品を演奏し佐渡さんへのプレゼント。そのオケの中で小さく背を丸めて演奏を聞き入る佐渡さん。
アンコールの最後はウィーラン:リバーダンスで締めくくります。その際のオーケストラの演奏には今までにない気迫というか、楽器を鳴らしたいという無垢で熱い衝動のようなものがビシビシと伝わってきました。それを受けて割れんばかりの拍手が会場に響き渡り、複数の掛け声が客席から上がります。終演時に深々とお辞儀をする佐渡さんとSKOの皆さん。
冒頭、PACの演奏との違いを覚えると述べましたが、SKOの音(アイデンティティ)がそこには確かにありました。また聴衆、少なくとも筆者の心揺さぶり胸熱くさせるに十分な力(パフォーマンス)がありました。そして3時間余の演奏会は笑いあり涙あり視覚的な楽しみありと、あっという間に終演を迎えるに至りました。そのSKOは今年、15年目にして初録音を行ったそうです。CDは11月頃リリース予定とのこと。
付記:2019/9/16 10:50-11:30 MBSテレビ(4ch)で「佐渡裕とスーパーキッズ・オーケストラ(仮題)」が放映されるようです。関西エリアの方は要チェックです。
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