「限定」という言葉にどちらかといえば影響されやすい性格です。たとえば日頃、馴染みの飲食店で”ランチ限定10食”なんて表示が目に留まれば、まだオーダーできるのか店員さんに尋ねたり、今冬も”会員限定””1月末まで”という言葉に乗せられて百貨店のウィンターセールに付き合わされたりもいたしました。
CD, LPなどは近頃とくに”限定盤”というフレーズをよく見かけます。なかには”完全限定生産”と強調し”限定”と”完全”の違いがよくわからないものもありますが、LPは復活基調が続いているとはいえ、レコード需要は相対的にも絶対数もまだ多いわけではないので制作側がプレスのロットを抑えたことを換言したとして理解できます。
ただ”限定盤””Limited Edition”でもその反響からか早速アンコール・エディションやアンコール・プレスがリリースされたり、リマスター盤がリリースされるたびに”限定”であったりと、その言葉が頻繁に拡大解釈される場面などはすでに日常的でもあり、セールスマーケティングで使用される”限定”という言葉にあまり惑わされない方が無難であることは一般的に言えるところだと思います。
数十年も音楽ファンの端くれであり続ければ、欲しいけど手に入らないCD, LPは稀にあります。それらは「限定」ではなく、その多くが入手したくなったときにはすでに廃盤・絶版であった状況で、海外も含めた市場に出回ってないことはないが、状態のわからない商品をわざわざ海を渡った先からコストをかけてまで取り寄せ手元に置くほどのことかどうかと逡巡するものです。
また幸いなことにコレクターではありませんので、オリジナルやセット物を揃えることに然程魅力を感じておらず、冒頭で「限定」という言葉にどちらかといえば影響されやすいと申しましたが、希少性という付加価値には無頓着という意味では「限定」にはあまりこだわらない性格でもあります。その手元に置きたいけれど廃盤または入手不可能だったいくつかの作品についてのお話です。
1枚目はBen Folds「Songs For Silverman」2005年にヴァイナル盤がリリースされましたが絶版。レコードを数十年ぶりに再開し入手したいと思ったときには中古市場でもすでにプレミア価格でした。ですのでCDと入手可能なEP盤を購入し聴いていたりもしました。
それが2017年にヴァイナル盤で再発されることになりました。レーベルはEpicから
Analog Sparkになりましたが、オリジナルのミックスリールをCohearent AudioのKevin Gray氏がマスター、RTIでプレスされています。ジャケットとブックレットは当時を復元しています。
2枚目はR.E.M 「Automatic For The People」1992年にヴァイナル盤がリリースされ過去複数回のリイシュー盤が再発されていましたが、市場にも新品在庫はほとんどなく、あっても若干割高でなぜか食指が動かず思い留まっていました。
それが2017年に”25th Anniversary Vinyl”として再発されることになりました。レーベルはConcord Music傘下のCraft Recordings、オリジナルマスターテープをPrecision Masteringでリマスターしています。
3枚目はNeil Young「Harvest Moon」1992年にヴァイナル盤がリリースされましたが絶版。Ben FoldsのSongs For Silverman同様に一度もLPでリイシューされることはなく、ダメージの多い中古品の状態でも超プレミア価格がついていました。
ところが2017年の”レコードストアデイズ”で初版5,000枚ではありますが再発されることになりました。レーベルはReprise Records。44.1kHz/16bitマスターをBernie Grundman Masteringによりヴァイナルマスタリングしています。
3作品とも90年代後半からのレコード衰退期にあってアーティストの意向なのか、それともワンソース・マルチユースでリリースされたフィジカルメディアの一つがバイナル盤であったのか、はたまた元々生産枚数が多くなかったのか、詳細まではよくわかりません。
それがプレミア価格ではなく標準的な価格で手元に置けた理由は、音楽ファン、とくに若年層にも広がったレコード再評価への制作側の寄与、背景にはストリーミング・サブスクリプションサービスの拡大とそれらサービスへ参加したレーベルが管理する音源のハイレゾ・MQA化があるのではないかと考えています。
再発盤にあってはオリジナルの方が音が良いとかオリジナルより音が良いとか、リスナーの受け止め方は様々なようですが、それはヴァイナル盤に限ったことではありません。それはそれとして、アーティストが意図した25年ぶりの音楽作品としてのヴァイナル盤が同じ頃にリリースされたのは背景を考えれば必然であり、手元に置きたい3作品が同じ頃に入手できたのは偶然なのでしょう。
今後も音楽を長く聴き続けるつもりですので、また廃盤・絶版を聴きたい欲求は積み重なるかもしれません。そのとき希少な盤を追い求めるのか、今回のように縁を待つのか。ただハイレゾカタログが増え続け、MQAのような音質改良のテクニックが出現した今となっては、必ずしもこれといったフォーマットに捉われる心象は薄れてきており、今回のように少々時間はかかりますが、縁を待つことの方が楽しいかもしれません。
コメント
コメントを投稿