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レビュー Mytek Brooklyn DAC+ Part3 プリアンプ編

今回はBrooklyn DAC+のプリアンプ機能を中心にレビュー致します。


 Brooklyn DAC+のデジタルインはS/PDIFやOPTICAL端子のほか、AES/EBUやSDIFにも対応しています。AES端子はプロ用ギアのみならずコンシューマ向けディスクプレーヤー、トランスポーターにも搭載されており、ユーザーはAES/EBUケーブルを通してデジタルギアをBrooklyn DAC+に接続することができます。

 SDIFはDSD RAWを扱う他社製レコーダーやDACとのデジタル接続が可能、さらにワードクロックのイン/アウトは複数台のBrooklyn DAC+でのマルチの同期など、プロ・コンシューマ双方で使える機能が充実しています。ワードクロックについては高性能なFemtoclockを搭載しており、外部クロックで大きく音質が向上することはないとする考えのようです。

 DACチップはESS Technology社 ES9028PRO SABER DACを搭載しており現行で高性能のチップの一つです。Stereo192-DSD DAC (ES9016S)、Brooklyn (ES9018K2M)とはピン互換のアップグレードにあり、系譜的な進化がうかがえます。上位グレードにあたるManhattanⅡが搭載しているES9038PROとの差は主としてDAC数にあり、新機能は同世代として重なる部分があります。

 DAC以降のアナログサーキットはデュアルモノラル構成を採用しており、Brooklyn DAC+でブラッシュアップしたフォノイコライザー回路も同様です。インプットセレクタはカッチと音の出るリレータイプを採用し、このリレータイプはサウンドチェックを行い決めたようです。アッテネータはアナログドメインとデジタルドメインのいずれかを選択できます。

 アナログボリュームはチャンネル毎のラダー抵抗回路で1段目は信号分圧器として2段目はオペアンプのフィードバックループに。デジタルボリュームは32bitデジタルボリュームを採用し音質に心配は無用のようです。アナログ/デジタルボリューム共に1dBステップ毎の減衰量です。いずれもフロントパネルのフィジカルノブとPCのMytek Control Panelから設定可能です。

 またプロ用ギアであるため出力ゲインが高め(-18dBFSの音量で…

コラム オーディオスタイル ー原音再生ー


 「原音再生」というフレーズに接することがあります。たしかオーディオ機器のCMに使われていたことをなんとなく覚えていますが、もしかしたら勘違いかもしれません。しかし記憶の片隅に「原音再生OOOO」というキャッチコピーが残っていますので、おそらく遠い昔にどこかで使われていたのでしょう。要はこの定型句のようなフレーズが脳裏に刷り込まれたのはかなり前のことだということです。

 では「原音再生」とは何でしょうか。端的に言えば、原音を忠実に再現することと解しています。おそらくHi-Fiの日本語訳なのかもしれません。なぜなら認識している意味がHi-Fiの意味とおおよそ重なるからです。Wikipedia*では「Hi-Fi」という項において「字義的には、High Fidelity(高忠実度、高再現性)の略語であり、音響機器などにおいて「原音や原画に忠実な再現」という意味を持つ」としています。やはりHi-Fiと意味が重なります。
 Hi-FiについてはJAS・日本オーディオ協会がハイレゾの定義(PDF)において「Hi-Fi」の概念を言及しているセンテンスがあり、1933年、Dr. Fretcherによる「HI-Fi」再生の条件として発表された内容として記しています。以下引用させて頂きます。

(1)伝送された雑音が、再生する部屋の騒音より小さいこと
(2)シンフォニーの再生には、ピークで100dB SPLの音が出せる程度のダイナミックレンジが必要であること
(3)伝送特性の非直線性によって発生する歪みは、判断できないほど小さいこと
(4)再生周波数範囲は、人の可聴周波数範囲を超えていなければならないこと
(5)定位が明確であること(これは後に追加された)

 つまり音響機器などにおいて上記の(1)〜(5)項目の条件を満たすことがHi-Fiだということになります。今見ればどれも常識的な内容ですが、おおよそ80年前の1930年代は1948年のヴァイナル盤登場以前のSPレコードの時代ですので、蓄音機等で再生するときの定義付けだったのでしょう。逆に見ればそれまでは条件に満たない再生があったことが推察できます。

 しかしこれらの条件は現代で通じるにしても基準が緩く低いことは明らかです。現在はJEITA・電子情報技術産業協会の規格のように、より細分化・高度化した基準に沿った音響機器のガイドラインが存在し、Hi-Fi(ハイファイ)に関わる規格自体が1996年に廃止されていますので、すでに技術的な分野でのHi-Fiという明確な定義においての意味付けは過去のものと言っていいのかしれません。

 再びWikipedia*の「Hi-Fi」歴史の項目では「1950年代以降、様々なオーディオメーカーが「原音により忠実」という意味の「ハイ・フィデリティー(High Fidelity)」という言葉をマーケティングに使用するようになり、さらに一般的になった」とあります。これは冒頭で記述した、遠い昔の記憶におけるCMのキャッチコピー「原音再生」の言葉が帯びるキャラクターと重なることになります。

 つまり「原音再生」とは原音を忠実に再現することの内容よりも語句に他意を帯びているのではないかと推察できるのです。その言葉がたとえば"高音質"や"良い音"のように一般化しているということです。たまにオーディオメーカー等の関係者の方の「原音再生が目標」という主旨のコメントを耳目に触れることがありますが、言わば目標設定、標語、スローガンのような性質の言葉なのかもしれません。

 否、我々は「原音再生」を目指して開発していると反論されるかもしれません。その点も理解しているつもりで、音響メーカーは機器の優れた出力リニアリティを追求していますし、よくできたアンプはまるで演奏者の横で聞いているかのような声や楽器の音を再現しますし、スピーカーの中にはピアノやヴァイオリンの製造工程や理論を活かした音色を発するものが存在します。ですからメーカーの「原音再生」の開発姿勢を否定するものではありません。

 では改めて「原音」とはなにか。広辞苑では「録音・ラジオなどにおける再生音に対して、もとの音」とあります。大辞林「(再生音に対して)レコード・テープなどに録音される素材となった音」とあります。二つを併せ見ると「再生音に対し、録音のもとになった素材の音」という解釈ができます。言い換えれば、録音データに入っているすべての音と捉えることができます。観念的に言えば、リスナーの向こう側にある音。演奏家や制作者の側にある音。そう捉えると意外に言葉の適用範囲が広く、認識との間にギャップがあることを認めます。

 そこで敢えて「原音」の定義を「生音」と仮定してみることにしました。その対象は声、ピアノ、ギター、鳥のさえずり、どしゃぶり、オーケストラ、あるいは寺社仏閣の杜、教会、海辺、スタジオ、ホールなどの環境を含めた「生来の音」と解すことが適切なのかもせれません。そうすると直接音だけでなく間接音もその対象に含まれまれることは「原音」の定義には欠かせず、そうなれば自ずと適用範囲は広がります。

 この解釈を英単語に適用すると「Acoustic Sound(アコースティック・サウンド)」と訳されるかもしれません。それとは別に「Electric Sound(エレクトリック・サウンド)」も存在します。生音を録音したサンプラーやシンセで合成したいわゆる素材音、ピックアップで増幅し加工したエレキ音などがそれです。これらの音を「原音」と捉える方もいるかもしれません。生音だけでなく加工音も「原音」であると。つまり演奏ー再生のプロダクションプロセスにおいて各段階における原音の解釈に差異が生ずる余地があります。

 たとえば演奏家と制作者が原音であると言えばそれは「原音」であると言えますし、演奏者と制作者の「原音」の観点が違う可能性もあります。リスナーがコンサートホールで聴いた音が「原音」であると主張することも否定はできません。なぜならライブ録音の立会人がリスナーであるからです。ですから「原音」をリスナーの向こう側にある演奏家や制作者の音であると言い切ることもできない。そこでもう一度「原音」とは何か。それはやはり生音や加工音も含めたもとになった音が原音であるとして不正解ではないと考えます。

 次に「再生」とは何か。海外の方と音楽やオーディオについて交流している際、Hi-FiとAccurateを使い分けて話す場面に遭遇します。先述の通りHi-Fiは「原音再生」として使われる言葉ですが、それとは若干ニュアンスが違う。さらに技術的な場面ではReproduction=再現が用いられます。用途としてはIn/Outが同一データである=再現されているという使い方です。この場合「再現」の方がより厳密にその性質を表す語句と解していますが「再生」も「再現」も同じ現象であることに変わりはありません。

 ただ日本語の奥ゆかしいところは「再生」が演奏にも録音にも適用されるところがあり、たとえば以前拙稿で扱った「再生芸術」という言葉に誤用的な解釈が生じ、録音再生行為があたかも芸術の一部であるかのように表現されるに至ることと、英語ではその行為の性質の違いからPlayとPlaybackとを使い分けるカルチャーの違いがある。その逆も然りで、つまり状況により同じ言葉でも意味が異なってくる、文脈を通して使い分けることが必要になってくる性質があるということでも「再生」の意味に幅がある。

 さて、再び「原音再生」に話を戻して「原音」と「再生」が合わさったときにどういう意味になるのか。原音とはもとになった音、再生とは再現であることから、つまり「原音再生」とは「もとになった音の再現」であると解釈することができます。翻って、はじめに「原音再生」とは「原音を忠実に再現すること」と述べましたが、はて、冒頭に戻ってしまいました。

 それもそのはずで「原音再生」というフレーズの語義がもはや多義的であるからこそ、そのシンプルな語感ゆえに、いろんな場面で、いろんな解釈で、いろんな手段で、トーン&マナー的に、便利に使われる言葉になっていることが現実の姿なのかもしれません。ですから今日「原音再生」という多様な語義を有するフレーズを今さら意思統一することが適切なのかどうか。ややその行為はアナクロニズムという感がしないでもありません。

 原音再生は手段か、それとも目的か。それも問題だ。




*参照引用:Wikipedia:Hi-Fi  最終更新 2017年3月10日 (金) 10:17




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