Real HD-AudioのMark Waldrep氏によるBenchmark社のテクニカル・ディレクターJohn Siau氏への
インタビュー(「John Siau: Benchmark Audio Guru」 by Mark Walrep / 09 April 2013)を一部引用しご紹介いたします。
Waldrep氏によるSiau氏へのインタビューは多岐にわたる内容で非常に興味深い内容で、巷にあるDSDの概念図(ホワイトペーパー)へ反論を展開しています。
尚、引用先の本文中にはDSDのブロック図やFFT表が示されています。
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Mark Walrep (MW): 「ブロック図の概念についてどう思いますか?」
John Siau(JS):「ブロック図の概念は1990年代の典型的なもので、 2000年以降のコンバータではほとんど製造されていません。事実上、今日のPCMコンバータはオーバーサンプリングで4bitコンバージョンです。1bitコンバータは過去の遺物です。追加の3bitの必要性はノイズシェーピングしながら全体のSNRを改善することです。 」
MW: 「マルチビットコンバータへの変遷を説明して下さい」
JS: 「90年代に音楽業界はDAWを始めました。当初は16bitでしたがノイズと歪みの問題から18, 20, 22, 24bitへ、最終的には1bitのデルタシグマコンバータは廃止され、24bitへ移行しました。ベンチマーク社の1bitデルタシグマDACを超える最初のステップはDAC2004で1997年に導入された20bitDACです。1bitデルタシグマDACをパラレル配置し、既存システムから3dB改良しました。4bitデルタシグマコンバータは130dB SNRを達成しています。これはDSD64の伝送路容量より10dB良い結果です。1bitのシステムでは単純にディザ(量子化誤差)ノイズとオーディオ信号の両方の面で十分なスペースを取れませんし、オーディオ帯域で120dBのSNRに制限されています。1bit以上が必要とされているのです。」
MW: 「DSDはSNRが減少するかもしれませんが、シンプルなデータパスは音質的に有利でしょう。」
JS:「ブロック図の点線はDSDがADC/DACにおいて幾つかのDSPブロックを省略するためにどのようにバイパス経路ができるかを示しています。(しかし両端は1bitです)もし今日DSDが再設計されていたならば、おそらく1bitの代わりに4bitを検討したでしょう。問題は1bit処理がほとんと不可能だということです。スタジオではDSDはDSD-wide形式と知られている8bitデータ(またはそれ以上)として処理されます。 この追加のビット数は各処理のステップで適用されるノイズシェーピング量を減少させます。 肝心な点は、ブロック図に示されている1bitのDSDバイパスはとてもシンプルなダイレクト・ツー・ディスクのDSD録音を除いて本当に存在しません。」
MW:「DSDはミックスできないのですか?」
JS:「はい。DAWではDSDは1bit-wideではありません。DAWの扱うビット長に依存し4bit-wide, 8bit-wide, 16bit-wideになります。」
MW:「どのDSDファイルやプロジェクトもPCM工程を通過するということは事実ですか?」
JS:「DSDプロジェクトの約99%がそういうことで差し支えありません。マイクを立ててDSDで直接録音した幾つかはあるかもしれませんが。ノー・プロセッシング、ノー・レベルチェンジ、ノー・フィルタリング、ノー・ミックス。それとアナログテープやレコードのアーカイブズのためのもの。」
MW:「ほとんどないというとですか?」
JS:「はい。現在、マルチチャンネルレコーディング、ミキシング、EQ、その他エフェクトはPCMで行う必要があります。今PCMはDSDのサプリングレートで処理されています。DSDからPCMヘのコンバートは現実的には無意識的機械的になされており良性の変換です。もしサプリングレートを変更しなければビット拡張において品質のロスはありません。DSDで数値演算する時にはビット拡張します。DSDは1bitですからマルチビットになります。DSDのDAWメーカーはプロセッシングにおいて彼らが望む精度でビットを保存できるかどうかで選択します。 多ければ多いほど良いのです。」
MW:「例えばPylamix, Sonomaシステムはどうなんですか?現実的にPCMステップを保ち続けているのですか?」
JS:「そういうことです。DSDサンプルレートのPCMで悪いことは何もありません。マルチビットPCMがDSDヘディザされた時に唯一ロスを生じます。1bitへディザした時にかなり多くの量子化ノイズが付きます。どの1bitDSD信号も6dBのSNRが最大です。(超高域ノイズが計測されます)カスケード接続のマルチビットDACから1bitへの変換はノイズの状況がさらに悪化します。」
JS:「そして相当量のバンドノイズを低下させるために、とても急峻なノイズシェーピングを行う必要があります。」
MW:「ええ。それはDSD録音のスペクトラムの高域に見る”紫色のもや”ですね」
JS:「DSDのスペクトラムは高域に膨大なノイズを示しています。SNRはせいぜい6dBです。」
MW:「高周波ノイズが含まれるSNRは最大で6dB?」
YS:「はい。それより良くはなりません。」
MW:「だからマスタリングエンジニアやメーカーは”紫色のぼや”を均質化するためにローパスフィルターを用いる」
JS:「残念ながら、超高域ノイズはDSD音源をPCMへ変換しなければ除去できません。超高域ノイズはDSDにいつも現れます。これは再生機器でノイズ除去しなければならないことを意味します。もしDSD-DACがよく設計されたローパスフィルタを装備しているならばSNRにおいてPCMシステムのライバルとしてスタート地点に立てます。DSDは24bitシステムの144dB SNRには届いていませんが、CDフォーマットの96dB SNRのパフォーマンスを超えます。よいフィルタを用いればDSDはざっくり言えば20bitのPCMシステムとほぼ同じ120dB SNRの信号を得ることができます。」
MW:「彼らは20-20kHzは傑出してるとし、ノイズシェーピングのジレンマのためにそれより高い周波数のことには言及しません」
JS:「問題はDSDマーケティングの資料は良い形の矩形波を示していることです。しかしその波形はアナログローパスフィルターをかける前のものです。アナログローパスフィルターをかけたものは全く別物です。Andresa Koch氏はペーパーで矩形波を示していませんが、DSDマーケティングの資料には現れます。」
MW:「S社のホワイトペーパーを見ました」
JS:「図1に関する限り、DSDからPCMへのコンバートはとても良質です。PCMからDSDヘの再変換は問題を生じます。1bitに戻すことを避けることができればベターです。このため最新のDACは1bitへのディザを避けています。通常4bitで止めます。モジュレータでの変調は4bitで1bitではありません。ですからノイズシェーピングはそれほど急峻である必要はありません。また4bitのディザには十分なスペースがあります。」
MW:「なぜ彼らはアナログのように帯域幅が100kHzまであると主張し続けているのでしょうか?」
JS:「それはアナログローパスフィルタより前です。残念ながらローパスフィルターは必須なのです。」
MW:「全てのノイズが移動されるというあれ?」
JS:「彼らは実用的なDSDシステムは50kHzのローパスフィルターが必要という事実を都合良く無視します。そしてそれがスペックの必要条件であるという事実。」
MW:「本当に?」
JS:「高周波ノイズがもし仮にアンプやスピーカーへ伝われば災難が生じます。DSD128はDSD64の50kHzより上の帯域幅を拡張するという改善を提供します。」
MW:「しかしファイルはサイズが大きくなる」
JS:「今日サイズの問題は過小です。個人的な意見では、DSDもPCMも良いディストリビューションフォーマットです。両方とも消費者向けの十分な製品です。PCMはより簡単に扱え、再生装置を簡素化することができます。ボリュームコントロール、フェード、クロスフェード、その他プロセッシングに必要な機能はDSDよりPCMの方がより簡単に扱えます。しかしそのプロセッシングを横に置くと、DSDは捕えられた全てのSNRと帯域幅を伝えることにおいては今日のどのレコーディングにおいても適しています。」
MW:「それは何においてもそうなんですか?Wallace Roney氏のスペクトラグラフを見ると40-45kHzを超えています。そして私はスピーカーやハードウェアが現に原音再現しようがしまいが気にしないことにしています。しかし演奏時に部屋中に音楽的な音が満たされていれば、完全に捉え保存したいと思います。Blu-ray, DVD-Audioは伝統的な人間の可聴域外の高周波まで保存できますので全てを再現しましょう。SACDやDSD、全てのノイズシェーピングしたものは選択肢ではありません。」
JS:「はい。それらの周波数はDSD再生の限界です。DSDにおいて50kHzのローパスフィルターは47kHzより上を正確に再現できません。フィルターは50kHzでのカットオフに近づくほど位相歪み、振幅誤差、リンギングを生じます。対照的に96kHzのPCMは高周波をよく捉えます。」
MW:「レコーディングはそうします」
JS:「48kHz以上が上手く捉えられません。」
JS:「ペーパーの図2を見ると非常にまぎらわしい数字があります。DSDのFFTと6.02dB/bitに直線の引かれた24bit PCMの約144dBのFFT。それは24bit PCMのFFTではありません。」
MW:「何が違うのですか?」
JS:「DSDよりもっと静かで低いです。この場合、FFTを比較する有効な計算に基づいていません。折り入って率直に言います。私はDSD再生サポート製品を取り扱いDSD再生をサポートしています。なぜなら・・・DSD素材を再生したい方がいるならば、その方法を供与することがセオリーだからです。まずコンバートありきではなく、直接再生したいならということです。」
JS:「我々はいかなるスタジオの生産作業としても推奨しません。専門的なアプリケーションとしても不適です。存在意義としてはマスタリングルームでの最終工程で、これがDSDフォーマットを流通させるべき根拠です。流通可能なDSDマスターを作りましょう。」
MW:「昔のアナログテープなどの製造工程にもPCMを用いています」
JS:「PCMは全ての生産作業に最適なフォーマットです。ミックス、EQ、プロセッシング、マスタリングまでPCMで、そして最終的にDSDに。PCMからDSDへの変換はロスを生じますがロスは限定的ですし変換工程にロスはつきものです。全てDSDで作業するよりより良い結果を生じます。」
MW:「その通り」
JS:「多くの人がベストだと思うDSD再生のためのDAコンバータを作ります。そしてみなさんが我々のDSD再生のサウンドにエキサイトします。我々は確信するためにやることはやりましたが、DSDは素晴らしいアイデアと思うフォーマットではありません。」
MW:「しかし発売した」
JS:「発売したのでサポートします。しかし広めたいとは思いません。」
MW:「アナログステージの最終段でボリュームコントロールをどのように扱いますか?アナログ変換後にしますか?」
JS:「そうしません。高サンプリングレートで処理し複数の1bitコンバータを使います。そしてそのボリュームコントロール機能で得られるビット増はパラレル配置されている冗長分の1bitコンバータを使用します。」
JS:「だから変換しません。この方法だとアナログドメインで合計される複数の1bitコンバータがあるのでPCMとみなすことができます。これらをボリュームコントロールで行います。アナログ変換前に1bitからマルチビット、また1bitへ戻さなないことが利点です。」
MW:「以前にそう言ってましたよね」
JS:「パラレル配置した16のバランス型1bitコンバータで同一のDSD信号を伝送する代わりに、信号振幅を減らすために異なるDSD信号を送ります。これらはアナログドメインで合計します。」
MW:「DSDの有効性について様々な見地があります。率直な評価と経験の提供に感謝いたします。」
JS:「Stanley Lipshitz氏とJohn Vandercoy氏は多くの研究をしました。そして多くのペーパーを記しました。それらの多くは耳を傾けてもらえませんでした。」
MW:「私はそれらを読んで数年前に英国で実際にStanley氏にAES会議で出会いました」
JS:「数年前のある日、S社の技術者に会いました。彼は言いました。我々のDSDはミステークがあり下り坂に入りましたが、投資し過ぎたことに気づきました。」
MW:「アーカイビングが第一の理由ではなかったの?アナログマスターを保存庫から取り出して最も忠実な保存方法だから置き換えたのではなかったの?」
JS:「概念的にそれはシンプルなアプローチのように見えました。そしてDSDはそのとき一般的だった16bitシステムをかなり上回りました。流通フォーマットとしてDSDは確かに16bit/44.1kHzのCDより大きいステップです。そして我々はすでに存在する素晴らしいDSD録音について最高の再生をしたいのです。」
MW:「そして彼らはCDの後継として取り入れようとしフォーマット戦争が始まった」
JS:「進歩しましょう。我々は最高品質として入手できる24bit/96kHzと24bit/192kHzに集中すべきです。」
MW: ”この記事にあたり専門知識を共有して頂いたJoshn Siau氏に感謝したします。DSD 64/128を使うことは明らかにハイエンドの音楽のための現実的なオプションでありません。そしてダウンロード販売でDSDを進めることが音楽愛好家の利益になることも疑わしいものです。実際一層混乱するかもしれません。”
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次にRMEの総販売元Synthax Japan社の
スタッフブログです。非常にわかりやすい解説と図解により、PCMとDSDのフォーマットの違いとDSDの問題点を指摘しています。論旨はDSD再生には課題があり、そもそも編集には不適なフォーマットであるという記述です。
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ご紹介した記事はいずれも遡って約2年前のものですが、斜め読みしていた時と読み込んだ時とではDSDへの印象が一変したと率直に言わなければなりません。雑誌や評論の一節から参照していたことは実は正しいDSDについての理解と認識ではなかったのだと。これは果たしてユーザー・リスナー側の問題なのでしょうか。
そしてこう思うのです。できる限り正しい情報に接したい。先ずはそれからだと思うのです。ですからフォーマット論争の渦中でユーザー・リスナーが情報の偏向に接しながら相応のコスト負担をしなければならないような状況が今日ありますが、ユーザー・リスナー側こそが一度立ち止まってその状況を考え直した方がいいのではないかと思います。
最後に、記事のブログ引用の機会をいただきましたReal HD-AudioのMark Waldrep氏へ感謝の意を表します。
*「」の引用文は英文を意訳したものです。正確性が必要ならば各本文をご参照下さい。
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コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part1 - DSDとリスナーの便益
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コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part2 - LINNのDSD批判
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コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part3 - DSD懐疑論
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コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part4 - DSDの普及コスト
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コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part5 - DSD Myth・GrimmAudioのホワイトペーパー
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コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part6 - 神話と真実・Myth vs Truth
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コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part7 - SACDの現状と未来
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